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抱きしめられた

 今年度は大体の行事が、コロナのせいでつぶれている。


 つぶれているという表現が正しいな、と思うこともあればそうでないこともある。


 どういうことかというと、行事をつぶすやり方は二パターンあって、一つは、生徒がもはやあまり楽しめない形で、縮小されるというものだ。


 これはペットボトルをつぶすとのと同じ感じで「つぶれている」と言えるだろう。


 もう一つは行事自体がなくなることで、これは国語的につぶれてはいるけど、僕的にはつぶれてなくて、消え去っている。別の世界線では何事もなく行われてるかもしれない行事が、ないものになってしまったのだなあ、と想像する。




 今年の文化祭に関しては後者が濃厚だった。


 まあ前者でも後者でもあんまり変わらない。


 まあどうせ後夜祭はないから幼馴染に告白するのは早くしなきゃいけなかったし、今作っているミニチュアが今年の文化祭で披露される可能性も、かなり低いのだ。



 文化祭は去年はオンラインとかいうので行ったが、そういえば記憶にない。


 オンラインというのは、成果がネット上にあるので、世界の誰でもみれる可能性がある一方で、世界のどこにでもあるコンクリートの破片のような存在にしかなり得ないということでもある。


 まあとにかくミニチュアは実際にジロジロみてもらわないと僕は納得しないしこだわりを説明したいし、鉄道が横で走ってるのも、地形を説明するのに使われるのも、ステージの企画の余興に使われるのも、素晴らしい。


 ああ、文化祭やりたかった。


 ってこれじゃあなんか、僕がすごいやる気ある人間みたいだな。


「先輩ー。手が止まってますよ……」


「ごめん」


「あ、いえ、ごめんなさい。あのですね、私も……全然作業、進まないです」


 美亜はまた僕を責めず、そして悲しそうに、笑った。





 作業が進まない僕たちは、帰ることにした。


 実際、文化祭前とは思えないくらい、早々と帰っている人たちがいる。


「そういえば先輩……文化祭は置いておいて……後夜祭は絶対ないですよね」


「うん。そうだろうな」


「……ですよねー」


 美亜のちょっと緊張した声に、僕はどきどきした。まさか美亜……僕に告白しようと思ってる?


 いやそんなことないよな。流石に、ぐうたらめの部活動してる先輩を好きにはならないよな。


 僕はそう結論づけて少し速く歩こうとしたが、美亜は立ち止まった。


「……先輩」


「……」


「い、いいこと思いつきました!」


「え?」




 そしてまた部室に戻ってきた美亜と僕。


「いいことって……どんなこと?」


「それはですね……特にないですね」


「あ、そう」


「でも……ぎゅっと先輩にするために部室に戻ってきました」


 美亜が……僕に抱きついている。


 どうしてだ……やっぱり……


「ほんとは後夜祭でロマンチックに告白したかったんですけど、それができないので、もう、強引に……ごめんなさい」


「ああ、別に大丈夫だけど……僕も後夜祭で告白するつもりでさ」


「え?」


「あ、でも……」


 僕は美亜にもう幼馴染に告白したこと、そして断られたことを話した。


「やっぱり好きだったんですか。ただ親しいだけかもと思っていたんですけど……やっぱり好きだったんですね」


 美亜はゆっくりを抱きつくのをやめていった。


 そして、


「あー、じゃあもう恥ずかしいこと私がしただけじゃないですか。もうおしまい! もうこの部活もおしまい!」


 泣きそうな声で美亜がそんなふうに言う。


 しかも実際、もうこの部活もおしまいかもしれないっていうのが、相当な問題だ。


 文化祭が終われば僕は引退。美亜は一人になる。一人ならそれは部活とは言わない。次の年に新入生が入るまで半年くらいある。


 だから……本当に、もうおしまいかもしれない。


「先輩って、私といても……私のこと好きになってくれませんでしたか?」


「恋……」


「恋?」


「いや、恋には落ちなかったけど……やっぱり……いや。もうわかんない。ごめん」


 僕は間違いなく美亜と二人でも部活を最後までやりたかったのに。なぜかもうダメだと思ってしまっている。


 文化祭がない可能性がめちゃくちゃ高いのはもう絶望的だけど。


 そんな絶望的な時だからこそ、僕は美亜を励さなければいけないのに、なんでそれができないんだ。


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