第2章・3話 春琴と佐助の行く末
鵙屋のご主人・奥様は、お嬢様が失明以来だんだん意地悪になるのに加えて、私の稽古が始まってからの粗暴な振る舞いを、少なからず心配していたようでした。
私がお嬢様の機嫌を取る行いは有難がってくれましたが、どんな無理無体も引き受けたので、将来どれだけ根性の捻くれた女人になるかと、気が気ではなかったようです。
ご主人の計らいで、私は18の冬から春松検校に弟子入りしました。
師匠の真似事がお嬢様の品性に悪影響を与えていたと考えたご主人が、私を取り上げることで難を治めたのです。
同時に私の運命も、この時に決まりました。
丁稚の任務を全て解かれ、名実ともにお嬢様の手曳きに、また弟子として春松検校の家に通うようになったのです。
私はこの采配を望みましたが、ご主人には新たな悩みが持ちあがります。
私の商人になる道を閉ざすことになりますから、滋賀の国元には「行く末のことを保証し必ず捨てておかぬ」と言葉を尽くされたことでしょう。
「お琴よ……、佐助を婿にもらってはくれまいか」
お琴に向き合った鵙屋夫婦が、恐る恐る切り出した。
主人は佐助に薬種問屋の修行をさせるつもりが、あろうことか三味線につきっきりにしてしまったのである。
佐助と家に申し訳なくなった主人は、お琴と佐助をくっつけようと考えた。
盲目の娘と結婚してくれる旦那を探すのは難しい。
佐助ならば願ってもない良縁であると思ったのだ。
お琴16、佐助20の折に始めて話してみたのだが―。
「嫌です」
即答である。驚いた夫婦は訳を尋ねた。
「妾は一生夫を持つ気はない。あんな泣き虫犬っころとは思いもよらぬ」
静かな怒りを湛えた声であった。
鵙屋夫婦はお互いを見合って、首を傾げた。
ならば何故、娘は佐助にだけ、手曳きを許すのだろうか。