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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白髪の殺人鬼

作者: 白夜いくと

 黒髪は魔法使いにとって大事な力の源。村のはずれの海岸に近いところに白髪の老婆が居た。彼女もかつて魔法が使えた魔女であった。老婆は村の子どもをさらって魔女になれる薬を造るという研究をしていた。髪だけを毟り取って死体は海の中に投げ込むのだ。


 村の人々はそんな老婆を【白髪の殺人鬼】と呼び、恐れていた。大人になると一本でも白髪が生えてくるもの。つまりは魔法が使えなくなる。村の人々は情けないと思いつつも、魔法を使える子どもたちに白髪の殺人鬼の退治を任せることにした。


 歳の上から、16歳のサフラン。12歳のベリー。10歳のルッコラ。


 サフランは回復魔法を得意としている優しい女の子。ベリーはサフランと親友の攻撃魔法が得意で活発な女の子。ルッコラは人の心を操作する魔法を得意とするおっとりした男の子。


 彼女らは最初こそ拒みはしたものの、最終的にさらわれる事になるのは自分たちであることを村の人々に言われて、なくなく村のはずれの海岸に近い、白髪の殺人鬼の館へと向かった。


「ほんっとに、大人たちは情けない。ね、サフラン!」


 ベリーが毒づきながら舌を出して不快感をあらわにした。その様子を少し困ったように眺めながら、サフランが、「仕方ないわ。大人たちは魔法が使えないのだもの」と言った。

 一方、ルッコラは頭の後ろで腕を組んでそんな2人のことを興味なさそうに見ていた。


 突然。ざっと、何者かの足音がする。


(白髪の殺人鬼か?)


 全員が悪い予感がして周囲を見渡すと、足元に縄で出来た罠が張ってあり、逃げ遅れたルッコラが木の枝に宙づりとなってしまった。


「助けて」


「んもう、どんくさい!」


 ベリーが魔法を唱えようとした瞬間、何者かが彼女の口をふさいだ。横には、縄で縛られたサフランが居た。


「また出来の良い魔法使いがいたぜぇ」


「こりゃ高く売れるな」


 筋肉質の男たちが群れてきて、サフランの髪を掴みながら言う。


「いくら魔法が使えるっていっても子どもは子ども。白髪の殺人鬼の噂を流したのが俺たちだって知ってるか? そんな奴ぁいねぇんだ。本当に怖い事はなんだか、身をもって知れ」


 状況を理解した3人は、自分たちが身売りされることを覚悟した。最悪の場合のことも考えた。体が震えあがる。その瞬間、風がぶあっと吹き荒れた。


「な、なんだ!」


 土埃の中から出てきたのは、鼻の尖ったしわくちゃの白髪の老婆だった。黒いローブを着ている。まるでその瞳は、獲物を狙っているフクロウのように鋭かった。吊り上げられていたルッコラや、縛られていたサフランや、押さえつけられていたベリーも、気が付けば老婆の後ろにいる。


「な、なんなのですか。あなたは!」


 サフランが老婆に語り掛けるが返事はなかった。男たちが一勢に刃物や棍棒を持って襲い掛かってくるが、その打撃は全て男たちに跳ね返った。彼らは怖がってその場から逃げることを選択した。


「後ろを振り返れば伝説の勇者。前を向けば夢物語。どちらを選ぶ」


 老婆が呟いた。

 彼女たちにとって、後ろとは村の方角。前とは館の方角である。


「お婆さんは悪いヒトなの?」


 ルッコラがそう尋ねると、「悪い人さ。子どもたちをいっぱい殺してきた」と、自身のことを語り始めた。空気がざわめく。多感な彼女らにとっては、それが何者かの断末魔のように聴こえた。


「私は、ずっと魔女で居たかった。子どもの頃に思いつかなかった魔法を自分にかけたかったのさ。不死の魔法を。ずっと魔法を使い続けられる魔女で居続ける魔法を」


「それで、いっぱい村の子どもたちを殺した」


 ベリーが、禍々しそうに老婆を見て言う。


「そうだ。殺したようなものだね」


 老婆は語る。子どもたちの髪を集めるために、村のはずれの館まで子どもたちを案内していたことを。森の中にさっきのような危険な人物がいることも知らずに。好奇心旺盛な子どもたちは館から抜け出して彼らにさらわれてしまう。その後どうなったかはわからないという。


「村の子どもたちには申し訳の無いことをした。黒髪の子らよ。もうこの近くに来てはならない。私はこの道に迷いの結界を貼る。その事を村の人たちへ伝えておくれ」


 3人は顔を合わせて話し合った。本当に信じていいのか。騙されてはいないか。


「僕たちを助けてくれたのは、罪滅ぼし?」


「そうかもしれない」


 ルッコラの質問にぎょろッとした瞳が応える。相手がどんな人であろうが、命の恩人であることには変わりない。サフランたちは村に帰って伝言を伝えることに決めた。


「黒髪の子らよ。これから先のことをよく聞きなさい。村の中にさっきのような悪い輩と組んでいる者がいる。そいつがわかるお香をあげるから、村に帰ったらみんなに嗅がせるんだ。舌の色が緑になる呪いを掛けてある。そう伝えなさい」


「は、はい」


 サフランがお香を受け取る。手のひらサイズの紫色の巾着袋の中にずっしりとした重みを感じる。


「ただいま!」


 村に帰ると、大人たちは彼女らを盛大に迎えた。早速彼女らは、老婆から聞いた言葉を伝えた。中には不審がる人も居たが、全員が興味を持ってお香の匂いを嗅いで舌を出した。


「こ、こいつ! 舌が緑だぞ!」


 村人の数人に舌が緑の者が現れた。急に信ぴょう性を感じたのか、村人はその者たちを問い詰めて白状させた。老婆の言った通り、仲介役を行っていた者だったのだ。


 その者たちを見せしめとして裁き、村は平和になったという――


「結局あの婆さん何だったんだろうね?」


 ベリーが欠伸をしながらサフランに訊く。

 答えなど誰も知るまい。なぜならそれは、魔法使いにしか見えない、不可思議な力の具現化したモノなのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです 海外の昔話を読んでいるようでした 怖い部分もありましたが引き込まれて読んでおりました 読ませていただきありがとうございました
[一言] ホラーかと思ったら……。 良い話でした^_^
2021/07/25 17:05 退会済み
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