61話 既成事実1
〇橙木夏美
ゆっきーが大学の方の家に行った。
金曜日。講義は午前に終わり、学食を食べたら友人たちと別れて家に直行した。
「んー……はぁ」
筆がのらずペンを置く。
気分転換に未読の漫画を読むことにした。
既読の本は本棚に、未読の本は机の上や袋の中にある。
近くにあった本を取る。少し前に買った百合漫画の新刊だ。えっちなシーンもあるやつ。
これまでの経験から漫画の知識が現実でほぼ通用しないことは経験している。私が恋愛漫画を読むのは9割が趣味だった。1割程度は参考にしようという意識も残っている。
「……既成事実、ね」
内容は社会人の女性による三角関係のNTRもの。
大学時代から付き合っている彼女と就職してから疎遠になりつつある女性主人公が、上司の女性から思いを寄せられ始まった三角関係。
今は上司の女性と勢いで性的に寝てしまった主人公が悩んだりしているシーンだった。
エロメインの漫画では無いのでそういうシーンは短めで、心理描写が丁寧に書かれている。
だから、感情移入もしやすかった。
それにしても、するのとしないのでは、気持ちも大きく変わるものなのだろうか。
「はぁ……」
ゆっきーの場合は、どうなんだろう。
ゆっきーは私に脈アリだと思う。
そう思いたい。思わないとやってられない。
多少強引に行く方が、ゆっきーには有効だ。
障害になっているのは遥さんの存在だけ。
そう考えれば、無理やりにでもゆっきーを押し倒してやることをやってしまうのは、アリだと思う。
重要なのは、ゆっきーをその気にさせること。
やり過ぎない程度に強引にいくこと。
そして、ゆっきーの気持ちを遥さん側から私側に持ってくること。
「よし、行くか」
善は急げ。
明後日にゆっきーが遥さんとデートすることは知っている。
あの二人は既にキスをしているのだ。
ほぼ遠距離のゆっきーと遥さんが一週間ぶりに会って何も起きない保証はない。
その前に、ゆっきーの気持ちを私の方へ向けさせるには───初めてというアドバンテージがあるのは、最悪今日と明日の夜しかない。
私は準備に取り掛かった。
拒絶された時のことは考えない。
ゆっきーは普段は大人しいけれど、本当に嫌だったら何がなんでも私を止めにかかるだろう。だから、私がやり過ぎることだけは無いと安心できる。




