閑話 期間限定メニュー
〇湊優希
『7月限定スイーツ!!』
新商品。期間限定。
注文することは既に決まっている。しかし私はメニューを見つめたまま頭を悩ませていた。
悩みの種は、7月限定スイーツが2種類あること。そしてメニューの下の方に書かれた『数量限定』の文字。それが意味するのは、来週には売り切れている可能性があるということ。
一人だったら、どちらかを選ばなければいけなかった。
しかし幸いなことにこの場には黒咲さんがいた。
メニューから目を離し、顔を上げる。
「黒咲さん、提案があります」
「それはこれに関すること?」
「そうです。これ、両方注文して分け合いませんか?一人で両方は食べ切れる自信がなくて」
「優希さん天才ね。そうしましょう!」
注文が決まった。
「お待たせいたしました。期間限定スイーツのメロン盛り合わせパフェと、葡萄たっぷりホイップパンケーキになります」
キラキラキラキラ。スイーツが輝いていた。
「美味しそうね!」
パシャ、とシャッター音。正面で黒咲さんが写真を撮っている。
「私も……」
普段は写真を撮ることはあまりないけれど、このスイーツは別格だった。
目の前にある、零れそうなほどぶどうが乗せられたパンケーキ。巨峰と小さなぶどう、そしてマスカット。生クリームもふんだんに使われていて、薄い紫色のアイスはおそらくぶどう味のもの。
どこからどう見ても美味しそう。
写真を撮らない方が失礼にあたりそうだった。
「それでは」
「ええ」
「「いただきます!」」
〇黒咲遥
スイーツの写真を撮ると見せかけて、端っこの方に笑顔の優希さんが映るように何枚も写真を撮った。
幸せそうな優希さんの表情。食べる前も微笑んでいたけれど、食べてる今はさらに嬉しそう。
美味しそうにパンケーキを食べる優希さんを見ていると、私まで嬉しくなった。
そして、
「はい、交換ね」
「どうぞ」
綺麗に半分だけ残されたパンケーキ、先程まで優希さんが食べていたパンケーキが目の前に。
私も半分のプリンアラモードを優希さんの方へ。私のは構造的に綺麗に半分とはいかなくて、崩れたところもあり、ちょっと申し訳なかったけど、優希さんはそんなこと気にせず食べ始めていた。
それはさておき。
私は一粒のマスカットにフォークを刺した。
「優希さん」
「どうしました?」
「はい、あーん」
「え」
スイーツを分け合いたいという提案をされて、すぐに思いたった。恋人なら定番の食べさせ合い。座席的にも周りから見えにくい位置。絶好のチャンス。
やらないという選択肢は無かった。
「大丈夫、他の人には見えないわ」
「いや、でも……」
「ほら、あーん」
「……」
「口、開けて?」
「わっ……分かりました」
「あーん」
優希さんの小さな口に、マスカットが入っていく。
「……」
ぱくり。一口。
「……どう?美味しい?」
「ん……美味しい、です」
「うふふ」
思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、次は私ね」
「?」
「優希さんが、私に」
「……一回だけですからね」
「ええ」
優希さんがメロンにフォークを刺す。
「……どうぞ」
パクっ。
「んん〜〜〜!美味しい!」
「それは良かったです」
「優希さん、顔が赤いわよ?」
「黒咲さんもですよ」
「うふふふ」
「……」
「もう一回」
「しないですっ」
照れてる優希さんはとても可愛かった。




