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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
54/64

54話 告白

 〇湊優希


 翌日。


 なっちゃんと色々あった日の翌日。


 10:00


 約束の時間ピッタリに、なっちゃんは私の家のインターフォンを鳴らした。


 モニターでなっちゃんがいることを確認してから玄関に行き、扉の前で立ち止まる。そこで一度深呼吸をして、私は扉を開けた。


「いらっしゃい」


「お邪魔します!」


 普段より僅かに高い声。なっちゃんが緊張していることは、それだけですぐに分かった。




「ゆっきーしかいないの?」


「うん、今はね。飲み物は何にする?」


「なんでもいいよ」


「……あ、コーヒーしかない。無糖だけど、いい?」


「うん」


 二つのコップに氷を入れてコーヒーを注ぎ、それを持って、なっちゃんを連れて私の部屋へ向かう。


 会話はない。


 コト……。


 部屋が静かすぎるせいか、コップを置いた音が異様に大きく聞こえた。


 なっちゃんの緊張が私にも伝染しているみたいだった。大切な話があると、それしか聞いていなかった私は、想像以上の緊張感に少し臆していた。


「座らないの?」


「あ、うん」


 なっちゃんが私の隣に座る。


「話があるの」


 と、なっちゃん。さっそく本題に入るらしい。


「うん、聞かせて?」


 と、私は言った。




 〇橙木夏美


 ゆっきーを見る。


 ショートの髪は整っていて枝毛の一本も見当たらず、明らかに外出用の服装は大学生にしては少し地味だけど、そこがゆっきーらしくて素敵で……。


 大切な話があるとしか言っていないのに、わざわざ身だしなみを整えてくれたらしい。


 目を閉じ、深呼吸。


 目を開く。


 よし。


「ゆっきーに隠してたことがあって」


「うん」


「実は……、実はね」


「……」


「私……」


 ドクドクと心臓がうるさい。死ぬんじゃないかってくらい激しい鼓動。


 息を吸う。


 自分の心臓の音にかき消されないように───


「私、ゆっきーが好きなの。だから、私と付き合ってください!」


「……」


 部屋はとても静かだった。唯一、自分の心臓の音だけが聞こえた。静かすぎて耳が痛い。


 驚いているかな……昨日のことがあるから、そこまで驚いてはいないかもしれない。


 どんな様子か気になるけど、多分今の私は顔がすごく赤くなっているから、横を向くのは無理だった。


「なっちゃん」


 名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がった。


 鼓動がさらに激しくなってる。


 緊張でお腹が痛い。


「う、うん」


 声が震える。


 手に力がこもり、服を握りしめた。


 隣からゆっきーの呼吸音が聞こえてくる。


「ごめんね」


「………ぇ?」


「なっちゃんとは、付き合えない」






 〇湊優希


 告白された。


(なっちゃんが、私のことを……?)


 昨日キスをされたとはいえ、まさか本当になっちゃんから「好き」と言われるとは思っていなかった。


 昨日のは何かの間違いだと、あるいは「ゆっきーに私のファーストキスあげちゃった!てへぺろっ」と言われた方がすぐに納得できたと思う。なっちゃんなら言いかねないし、やりかねない。


 だけど、なっちゃんの告白は本気だった。


 それが分かったために、余計に混乱した。


 そんな混乱の最中(さなか)だったけれど、告白の答えは既に出ていた。


「はい」か「いいえ」か。


 そんなの、決まっている。


 私には今現在、遥さんという恋人がいるのだから。私はなっちゃんのことを友達だと思っているのだから。


 決まっていた。


 ここで優柔不断になってはいけない。


 深呼吸──


「なっちゃん」


「う、うん」


「ごめんね」


「……」


「なっちゃんとは、付き合えない」




 〇橙木夏美


 断られるかもしれないと思っていた。


 ゆっきーには恋人がいるのだから。


 分かっていた。


 それでも、「付き合えない」と言われた瞬間は、頭が真っ白になってショックで心臓が止まるかと思った。


 だけど、ここで諦めるつもりは無い。


 今日は振られるために告白しに来たんじゃない。元々断られるかもと思っていたのだから、一度断られたあとのことも考えてある。


 私はまだ振られていない。さっきのはノーカン。


「遥さんがいるから?」


「……うん」


やっぱり。


それなら、と、私は用意していた言葉を言う。


「私は、別にゆっきーと遥さんが恋人のままでもいいよ」


 ようやく落ち着いてきたので、ゆっきーの方を見る。


「……え?」


 意味がわからないとでも言いたげな顔をして、ゆっきーもこっちを向いた。


「遥さんとはそのままでもいいから、私とも付き合ってほしいの」


「え……待って、ちょっと待って。なっちゃん何言ってるの?……いや、それはダメでしょ。ダメじゃない……?」


「ダメなのかな?」


「え?」


「別にね、遥さんと別れてほしいって言ってるんじゃないよ。ゆっきーが他の誰かと付き合ってるのは、そりゃ、嫌だけど……。でも、私にもチャンスがほしいの。付き合ってみたら、ゆっきーの気が変わることも、あるかもしれないでしょ?私と遥さん、どちらかを選ぶのはそれからでも遅くないと思うの」


「……」


「それとも…………私とは、どうしても付き合えない?」


「……」


「私とは……嫌、かな……」


「なっちゃん…………、ごめん」


「っ……」


 二度目の「ごめん」


 今度こそ、ダメかと思った。


 胸が張り裂けるような痛みを覚えた。




 だけど、そうではなくて。


「ちょっと、考えさせて」


 と、ゆっきーは言った。

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