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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
44/64

44話 ツインテール(12才)

 ○湊優希(12才)



 私が教室に入ったのは、朝のホームルームが始まるギリギリの時間だった。先生が教卓に立っていて焦った。


「ふぅ……」


 窓側から二列目の一番後ろ。自分の席に座ったところで、ようやく私は一息つけた。


 それから、ざっとクラス全体を眺めてみる。


(……よかった。ツインテールはいない)


 探したのは、私がギリギリの時間に教室へ入ることになった原因である例の女子。


 慌てて逃げたため彼女の顔は見ていなかったけど、振り返る前の一瞬にみえた髪型がツインテールだったことだけは覚えていた。だからツインテールがいないか探してみたのだけど、このクラスにその髪型の人はいなかった。


「起立」


 チャイムが鳴り、先生の合図でクラス委員長の号令がかかる。


(ほんと、びっくりしたなー……)


 廊下での出来事を思い出す。朝のホームルームはいつの間にか終わっていた。




 ○橙木夏美(12才)


「あ、みつけた!」


 私が3度目に美少女ちゃんに遭遇したのは、挨拶をして逃げられた日の放課後だった。


 下駄箱で靴を履き替えていたところを、私は発見した。


「え、どこどこ?」


 まっきーだ。まだ見つけていないらしい。


「あそこだよ」


 りなちーは見つけたようで、きょろきょろと周囲を見渡していたまっきーに教えている。


(今度こそ)


 そう意気込んで、私は彼女の方へと足を踏み出した。


「また声かけるのー?」


「もちろん」


「どうしてそんなにあの子に拘るのよ?」


 りなちーが、心底理解できないという顔で聞いてきた。


 りなちーが首を傾げると、彼女のトレードマークであるポニテが揺れる。ゆらゆら。


「どうしてって、そんなの決まってるじゃん」


 私は足を止めて、私の後方を歩いていた二人の方を振り返る。


「あの子、絶対美少女だもん」


 呆れられた。


 2人揃って、同じ顔をしていた。




 気を取り直して、私は美少女ちゃんに近づいた。


「あっ、あにょっ!」


 噛んだ。


「あにょ?」


 既に靴を履き終え、外へと歩き始めていた美少女ちゃんは、今回は無視をしないでこっちを向いてくれた。


 朝は2回もスルーされたから、正直それだけですごく安心した。


 しかし、やっとだ。


 これでやっと、美少女ちゃんのご尊顔を拝むことができる!


 そう思っていたのだけど。


(え)


 俯き気味で、その上目元が長い前髪に隠されていたために、私は美少女ちゃんのお顔の全貌を知ることができなかった。彼女の真正面からでさえ。


 しかし私の「美少女ちゃんは美少女に違いない」という予感は最早確信を超えて現実味を帯びてきた。


 目元は見えないが、その下の鼻や口、顔の下半分の輪郭はよく見える。それらを見て、私は自分の直感が正しかったことを理解した。


 だからこそ、こうも思った。


「なにそれ、勿体ないっ!」


「っ!?」


 思っただけでなく、言っていた。


 私の突然の発言に、美少女ちゃんがびっくりしている。いけない。これでは、今朝の二の舞だ。


「あ、えっと、違うの!ごめんね、驚かせちゃって」


 一歩引いて、両手を胸の前まで上げてその手をひらひら。


 私の人畜無害アピールが功を奏したのか、美少女ちゃんは逃げなかった。


 第一関門、突破だった。




 〇湊優希(12才)


 頭部の両サイドに髪を束ね、橙色のヘアゴムで括った髪型。


 ツインテールだ。


 それは間違いなく、今朝のツインテールだった。


「なにそれ、勿体ないっ!」


 よく分からない声が聞こえて振り返った先にいたそのツインテールは、二言目にもよく分からないことを(のたま)った。


 勿体ない?なんの話?


 私に話しかけてるんだよね?


 もしかしてまた人違い?そんなにも私に似ている人がこの学校にいるというのか?


「あ、えっと、違うの!ごめんね、驚かせちゃって」


 ……とりあえず、人違いでは無いらしい。


 私に用があるのだろうか。


 よく分からなくてその場で立ち止まっていると、ツインテールの後ろからさらに2人、人が現れた。両方とも女子だ。スリッパの色から、2人とも同じ一年生であることが分かる。


「あ、あのさ!」


 沈黙を破ったのはツインテールだった。


「よかったら、一緒に帰らない?」


「……」


 一緒に?私と?どうして?


 色々と疑問はあったけど、それらが私の口から出てくることは無かった。


 私には、逃げることしかできなかった。


「ご、こめん、なさい……」


 聞こえるかも分からないほど小さい声で謝ってから、私は彼女たちに背を向けて小走りでその場を去った。校門を出てからもしばらく走り続けて、足が疲れてきたところで走るのをやめて、膝に手をついて立ち止まった。


 荒い呼吸を整えていると、次第に頭と心も冷静になってくる。


 ……せっかく、話しかけてくれたのに。


 後悔しながら、私は一人帰路に着いた。

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