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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
41/64

41話 帰り道

~(=^・ω・^)ノタイトルつけてみました。

 〇黒咲遥



 午後6時過ぎ。


 日が暮れる前には夏美さんの家に到着し、他の人たちとはそこで別れた。それまでの賑やかな空気から一転した、静かな帰り道。


 隣にいるのは優希さん、ただ一人。


 期待していた状況に、私は自分でも分かるくらいソワソワしていた。


 けれども現在、私は浮気立つ自分の心を押さえつけて、優希さんと手も繋がずに黙々と歩いていた。


 理由は、隣を歩く優希さんの表情が優れなかったから。


 そしてその原因についても、おおよその察しはついていた。


「悩んでいるのは、夏美さんのこと?」


 並木道に差し掛かったところで、私はそれまで閉ざしていた口を開いた。


 二人で歩き始めてから幾度もそれとなくサインを送っていたのだけど、一つも気づいてもらえず、このままだと一言も話さず終わってしまう気がして。……痺れを切らしたとも言う。


「!……そうです。……すいません、今考えることじゃなかったですね」


「いえ、いいのよ」


 反射的に、私はそう言った。


 こういう時、少しは不満そうにした方が、優希さんの意識を私に向けられるのかもしれないけど……。


 とはいえ、優希さんを困らせたくもないから、結局私は気にしていない風を装うのだろう。


 また、無言の時間が続く。


 まだ優希さんは、夏美さんのことを考えているのだろうか。


 前方に並ぶ二つの影を眺めながら、そんなことを考えていた時のことだった──私の右手が握られたのは。


 優希さんが、私の手に触れてきたのは。


「今日は、色々と迷惑をかけてしまいましたよね」


「……迷惑だなんて、思っていないわ。今日は本当に楽しかったもの」


「それは良かったです。……でも、私は今日のこと、反省しています」


「反省?」


「はい……。その、付き合っていることを秘密にしたこととか、そのせいで遥さんに我慢させてしまったなと思って」


「いや、そんなこと……」


「でも遥さん、ずっと私の方見てたじゃないですか」


「えっ!あ、いや、それは、なんていうか……私、そんなに見てた?」


「ずっと見ていましたね」


 まさか気づかれていたなんて。そんなに見てただろうか?少しは自覚があったけど……。


 なんだか気恥ずかしくなって、優希さんから顔を逸らす。


 顔が少し熱い。


「なので……その埋め合わせというか、なにか出来たらなと思いまして」


 右手の柔らかい感触から、軽く力が伝わってくる。


 私も、ぎゅっと握り返す。


「じゃあ……私の家まで、このまま手を繋いで行きましょう」


「?それだけでいいんですか?」


「……じゃあ、もう一つだけ」


「なんです?」


「……着いてから、言うわ」


 こういう時に限って、やりたいことが浮かんでこないのは、ほんとにどうしてなのだろうか。


 とりあえず繋いでいる手を恋人繋ぎにしてから、家の方へと向かった。





 着いた。


 着いてしまった。


 まだ脳内会議は終わっていないのに。


「……こっちよ」


 あまり深く考えずに、優希さんの手を引きながら私は人目につかない裏口の方へと回った。


 この家にある二つの裏口のうち、普段は誰も使わない方へと向かう。もう一つの方は従業員の出入りでよく使うので、定休日とはいえ人が来るかもしれないからダメだ。


「遥さんの家、本当に広いですよね」


「……そうかも、しれないわね」


 あっという間に、裏口の前に着いた。


 広いとはいえ、家の敷地内。時間稼ぎにもならなかった。


 日はまだ沈んでいないけど、光が遮られて周囲はかなり暗くなっている。聞こえる音は、私と優希さんの足音だけ。


 ……この空間にいるのは、私と優希さんだけ。


 裏口の前で立ち止まり優希さんの方を向いた私は、衝動的に、繋がった手で彼女を引き寄せ──そして、抱きしめた。


「……っ」


 息を飲む音が聞こえてきたけど、優希さんは抵抗せずそのまま私の腕の中に収まった。


 微かにプールの香りがした。


 そしてしばらく、静寂が続いた……。


「……知らなかった。……独り占めって、すごく安心するわ」


「私も知りませんでした。遥さんって、結構独占欲強いんですね」


「……嫌、かしら」


「嫌ではないですね」


 その言葉を聞いて、また少し安心した。


 腕の中に優希さんの温もりを感じる。


 優希さんを抱きしめていると、彼女がここにいるということがこの上なく感じられた。


 私だけが優希さんに触れている。


 そう思うと、とても満たされた気持ちになった。


「好き」


 優希さんだけが聴こえるように、私は耳元で囁いた。

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