40話
○橙木夏美
「具合、どう?」
ゆっきーの声が聞こえてきた。
隣を見れば、心配そうな顔をしたゆっきーがいる。
ずっと寝ていた私を心配してくれているらしい。
普段はそれだけで嬉しくもなるのだけど、今はそんな気分ではない。そんな気分にすらなれなかった。
「うん、もうだいぶ良くなったよ。ありがとね」
「そう、良かった。でも、帰りは運転しないで休んでてね。私が代わりにするから」
「ゆっきーの運転かー。自信の程は?」
「えーと……免許取って以来一度も運転してないから、自信はあんまり無いかなー」
「うわっ、すっごい不安なんだけど」
「機会がなかったんだよ」
「それなら──」
そこで、更に別の声が聞こえてきた。この声は、うん。
「──私が運転するわよ。年長者としても、それくらいはさせて欲しいわ」
遥さんだ。ゆっきーを挟んで隣に並んできた。
彼女の声を聞いてすぐ、私は前を向いた。ゆっきーと遥さんが二人で並んでいるところを見たくなかったから。
「それじゃあ、遥さんにお願いしよっかな」
「ええ、任せて」
私のお願いを、遥さんは快く引き受けてくれた。
(……困ったなあ)
遥さんの声を聞いて、私は悩まずにはいられなかった。
どうやら私は「声も聞きたくない」と思えるほど遥さんが嫌いな訳では無いらしい。
遥さんがゆっきーの近くにいると不安になるし、二人が楽しげに話していると耳を塞ぎたくなるけれど。
遥さん個人のことが、私は嫌いじゃないらしい。
第一印象が良かったせいかもしれない。昨日の彼女との会話が楽しかったせいかもしれない。
数少ない遥さんとの思い出が、遥さんを嫌いにさせてくれなかった。
──遥さんじゃなければ。
またそう思った。




