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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
37/64

37話

 〇橙木夏美



「優希さん、私も日焼け止め塗ってもらってもいいかしら?」


 黒咲遥さん。


 ゆっきーの新しい友達。昨日は一緒に水着を買いに行ったりアニメの話で盛り上がったりして、今もまた一緒にプールを回っているのだけど、昨日とはうってかわってその居心地はあまり良いとは言えなかった。


 彼女の行動一つ一つが私の心をざわつかせてくるからだ。


 特に。


 そう、特に──ゆっきーが近くにいる時。


 それはゆっきーが良い人間関係を築けていることの表れなのだから、ゆっきーの友人として私はそのことを歓迎するべきなのに……頭では分かっていても、心が彼女を受けいれようとしない。


 ゆっきーの隣にいるのがりなちーやまっきーならば、そうは思わない。遥さんと同じく昨日知り合ったばかりの氷野ちゃんでも、やっぱりそんなことは思わない。


 だけど、遥さんだけは違う。


 今もそう。隣でゆっきーが遥さんに日焼け止めを塗っている、その様子を視界の隅で捉えながら、私は不快感を抱いている。表情を取り繕うので精一杯だ。


 まるで、ゆっきーが取られたみたい。


 元より私のものでもないのに、心のどこかでゆっきーを自分のものと考えている私がいた。ゆっきーが昔から人付き合いで悩んでいることを知っているのに、だからこそゆっきーに親しい人がいるのは喜ぶべきことなのに、素直に喜べない自分がいた。


 そんな私自身が一番嫌になる。


「はい、終わりです」


 隣ではようやく日焼け止めが塗り終わったようだ。


 ゆっきーが遥さんから離れていくのを見て、ちょっと安心している私がいた。






「ねえ、ゆっきー」


 遥さんがお手洗いに行ったタイミングで、私はここぞとばかりにゆっきーとの距離を詰めた。


 りなちー達ならともかく知り合ったばかりの遥さんがいる手前、ゆっきーとの距離感を掴みかねていた私にとってこれはチャンスだった。


 今更ゆっきーに私の好意に気づいて欲しいなどとは考えていない──気づかれるような行動もしていない──けど、せめてその分友人としてゆっきーと仲良くするくらいは許されるはず。


「どうしたの?」


「ゆっきーから見て、遥さんってどんな人?」


「え……それは、うーん……なんて言えばいいんだろう」


「何でもいいよ。意外とこういう一面がある、とか」


「なるほど……意外と子供っぽい一面がある、とか?」


「ふーん……見た感じ大人っぽいって言うか、しっかりしてるなーって思ってたんだけど、子供っぽいの?」


「うん。この前も……あ」


「この前も?」


「いや。やっぱなんでもない」


「えー、なに?気になるんだけどー」


「いや、これは言わない方がいいというか……遥さんに悪いというか……」


「む、そうか……そういうことなら」


 ゆっきーが遥さんと二人で笑いあっている様子が脳内に浮かび上がってきて、聞かなければよかったって少し後悔した。


 もっと前に諦められたら、こんな思いもしなくて済んだのだろうか。


──もういっそ、全て言ってしまうのもいいかもしれない。


──でも、それでゆっきーとの関係が壊れてしまったらと思うと、どうしても怖くて言えない。


 ゆっきーのことを考える度に何度も繰り返してきた自問自答。


 私とゆっきーの関係は、私が告白したくらいで壊れるようなものではないと思っているけれど、そんなこと言葉ではどうとでも言える。


 確実なのは、壊れることはなくても、絶対に今まで通りにはいかなくなるということ。


 私がゆっきーに告白して、もしその結果が良ければそれで良いし、悪ければ気まずくなるに違いない。ゆっきーは優しいから私に気を使ってくれるだろうけど、それでも今のこの関係は続かないだろう。もしかしたら、友達ですらなくなるかも。


 そうなると、まっきーやりなちーにも迷惑を掛けてしまう……いや、もう数え切れないほど迷惑は掛けているけど。二人は私の気持ちを知っているのだし。


 それにゆっきー同様、今さら多少の迷惑を気にするような間柄でもない。付き合いの長さで言うならゆっきー以上の二人だ。


 また彼女らに相談するのもいいかもしれない。二人との相談は今までも散々やってきたことで、最早相談というよりただ愚痴をもらすだけの場と化しているのだけれど、私の精神安定に有効なことだけは確かだった。


 よし、あの二人にはまた話を聞いてもらうとしよう。


 そう思い立った、少し後のことだった。


 氷野ちゃんが私に話しかけてきたのは。

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