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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
36/64

36話

 〇黒咲遥



 複数のプールやスライダーがある大型プール。そこに私たちは来ていた。


 更衣室のすぐ外で待ってくれていた優希さんに声をかける。


「おまたせ」


「はい、行きましょうか」


 そして私の思考は停止した。


 優希さんの水着姿が目に映り込んだからだ。


 上は服のような水着で、肩とお腹だけが控えめに素肌を晒している。白色の生地は薄く、目をこらせば内側の黒いトップスが若干透けて見える。下はデニムの水着で、丈は結構短い。


 昨日頑張った甲斐があったと、心からそう思った。一緒にコーディネートしてくれた夏美さんたちにも感謝しないと。


「遥さん?」


「あ、ごめんなさい……その水着、とてもよく似合っているわね」


「えっと……ありがとうございます。遥さんも似合っていますよ」


 優希さんはそう言って微笑んだ。


 その格好でその笑顔は反則ではないかしら?


(今日来て、本当に良かったわ……)


「行きましょう、優希さん。みんなを待たせてはいけないわ」


「そうですね」


 一瞬手を握ろうと思ったけれど、すぐに思い直してやめた。


 今日の私と優希さんはあくまでも友人同士。優希さんから具体的にこういう行為はやめてほしいなどとは言われていないけど、優希さんの迷惑になるかもしれない行動はしないほうがいいに決まっていた。






「スライダー系全部回りたい」


「賛成なのです」


 二人ほど元気な人がいた。


 莉奈さんと氷野さんだ。この二人、昨日ゲームの話で意気投合して以来息がぴったりだった。


「真雪、行くよ」


「真雪、行くのです」


「あのー、あんまりハードなのは嫌なんだけどー」


「安心して、軽いやつから回っていく」


「慣れれば楽しいのです!」


「人の話聞いてるー?」


「大丈夫」


「大丈夫なのです!」


「……」


 真雪さんもついて行くことに。


「他、付いてくる人いる?」


 莉奈さんが私たちの方にも尋ねてきた。


 私は優希さん次第だ。


「パスで」


 と優希さん。


「ゆっきーが行かないなら私も残ろっかなー」


 夏美さんも残るみたい。出来れば二人が良かったけど……いや、違う違う。今日はそういうのは無しだから。


「私も遠慮しておくわ」


「分かった。じゃ、行ってくる」


「行ってくるのです」


「……逝ってきまーす」


 ハイテンションな二人とローテンションな一人を見送ってから、残った私達も近くのスライダーの列に並んだ。




 スライダーの次は流れるプールへ行き、再度スライダーの列に並んで滑り終わったときにはお昼時になっていた。


「日差しきつかったー」


「日焼け止め塗り直す?」


「うん、そーするー。ゆっきーやってー」


 日陰になっている休憩スペースで休んでいると、隣では優希さんがうつ伏せに寝転がった夏美さんに日焼け止めを塗り始めていた。


 夏美さんの背中に日焼け止めを垂らし、優希さんが素手でそれを伸ばしていく。最初は背中全体に満遍なくのばしていき、次に肩、腕へと移っていく。……あ、脇の下まで。はっ、そこもうすぐで胸が……あ、危ない。優希さん、結構攻めるわね……。


「……」


「?遥さん、どうしました?」


「あ、いえ。なんでもないわ」


 ついじっと見てしまった。


(後で私もやってもらおうかしら……それくらいなら、いいわよね……?)


 羨ましいという気持ちも普通にあったが、それ以外に優希さんが他の誰かと仲良くしているのが少し心にささった。会話くらいならなんとも思わないのだけど……特に今日は水着でお互い素肌を晒しているから、スキンシップを過剰に意識してしまう。


 優希さん曰く、夏美さん達は親友ということだからそれくらいよくある事だと思うのだけれど……いや、普段からそういうスキンシップがあると思うと、それもそれで――嫌だ。


「はぁ」


 ダメダメ。そんなことをいちいち気にしていたら、嫌な思いばかりしてしまう。切り替えないと。


「ただいま」


「買ってきたのですー!」


「焼きそばとたこ焼きだよー」


 スライダー組がお昼をまとめて買ってきてくれたみたいだ。


 氷野さんがこちらにやって来る。


「遥さんは、どっちにするのです?」


「そうね……じゃあ、たこ焼きにしようかしら」


「おっけーなのです」


 氷野さんからたこ焼きを受け取る。隣では、優希さんもたこ焼きをもらっていた。


「ゆっきー、たこ焼き一個ちょーだい」


「んー……はい」


「あーん……んー、おいしい!」


(あ、あーん……なんて……!私も、焼きそばにすれば……)


 羨ましいわね、夏美さん。


 優希さんも優希さんで、私の目の前でそんなことするなんて……


「遥さん?私の顔になにかついてますか?」


 いけない。また優希さんの顔を見ていた。


「いえ、なんでも」


 慌ててそう言いかけたが、優希の口元を見て私は言葉を改めた。


「……青のりとタレがついているわよ。ちょっとまって、今とるから」


「え」


 指で、と思ったけど、人目があるのでティッシュで拭き取る。


「……この歳になって、人に口を拭いてもらうというのは……結構恥ずかしいですね」


 優希さんは小声でそう呟いていた。


 恥ずかしがっている優希もまたとても可愛らしい。


 ご馳走様でした。






 視線を感じる。


 最初に分かったのはスライダーの順番待ちで並んでいた時だった。その時は周囲の誰かから見られているだけだろうと気にしなかった。見られることには慣れているから。しかし、何度か同じように感じてようやく私は気づいた。


 橙木夏美さん。


 私を見ていたのは彼女だった。


 灯台もと暗し。近くにいたために、周囲に気を配っていた私は気づかなかったみたい。私に何かあるのだろうか?と思ったけど、そもそも一緒にいれば視線の一つや二つ向けられるものだろうと思いなおした。友達付き合いがなくなって久しい私は、その辺りの感覚を忘れているようだった。


 しかし、やっぱりたまにだけどこちらを見ているようなので何か用があるのかもしれない。話しかけるべきか、と思い立ったところでそういえば今日はあまり彼女と話してないということに気がついた。昨日は趣味の話で盛り上がったので個人的に好印象な夏美さんだけど、今日は一転してあまり一緒にいて欲しいとは思えなかった。


 彼女がいるせいで優希さんと全く二人になれないからだ。


 もちろん今日はそういうのは無しだと決めたけど、とはいえ少しくらいいいじゃないとも思う。


 でも優希さんとのこういう距離感も普段は味わえないものだと思えば、これはこれでいいのかもしれない。


「優希さん、私も日焼け止め塗ってもらってもいいかしら?」


 普段は言えないような要求も、友人という関係なら簡単に言えてしまうのだから。

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