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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
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3話

 ◇黒咲 遥


 優希さんに告白した日の夜。


 私は自分の部屋のベッドの上で膝を抱えて丸くなりながら、今日のことを思い出していた。


(あの優希さんと話すどころか連絡先まで交換してさらに恋人にもなれたなんて、今日は最高の一日だったわ。数時間前に勢いで告白した自分を褒めてあげたい。ああ次はいつ会えるかしら…)


 帰り道に自分の中の自己嫌悪は置いてきた。だから、今の私はただ優希さんのことだけを考え幸せに浸り続ける存在なのだ。


(優希さん可愛かったなー。私あの子と付き合っていいのかしら。釣り合うのかな。でも優希さん何も言わずにオッケーしてくれたし、もしかして両思い?だったりして〜)


 しかし、永遠に続くと思われた私の妄想は、外に置いてきた自己嫌悪が私の中に帰ってきたことで終わりを迎えた。


(……はぁ。そんなわけないか。今日の私、どうかしているわ。というか何も言わずにオッケーって、優希さん本当に何も言っていなかったわよね。…それって告白を受け入れてくれたとは言えなくないかしら。でも拒否されてもいないわけだし……あれ?私と優希さんって付き合ってるの?付き合っていないの?)


 悪い方へ、悪い方へと思考は沈んでいく。


(そもそも女の私に告白されて、普通は即答しないわよね。付き合うどころか、気持ち悪く思われてもおかしくないわけだし…。もしそう思われていたら、もう二度と話すことすらできないかも…)


 それは嫌だ。


 なんで、あんな勢いだけで告白してしまったのだろう。いや、原因は分かっている。片思い中の相手を前にして、思いを抑えきれなくなってしまったのだ。


 数分前まで自賛していた数時間前の半ば思いつきの言動に、今は後悔を覚えている。


 今日の私は、どうも情緒不安定だ。


 でも、悪いことばかりではなかった。


(あの喫茶店で優希さんに会えた。………()()()()()、だったわね)


 今日の行動は、()()思いつきだった。


 半ば。


 半分。


 二分の一。


 残り半分は、計画的行動。


 それは私が見た()()の正確性を確かめるための計画であり行動だった。


 結果として、私が見たものは正確だということが分かった。それについては、良かった。


 その代償として、嫌われたかも知れないが。


「はぁ」


 …今頃、優希さんは何を考えているだろうか。


 私のことを考えているだろうか。


 もし私のことを考えていたらと思うと、顔が熱くなる。


 もし私が優希さんなら、告白された日の夜に何を考えるだろうか……


「優希さん…」


 私は冷静な思考を取り戻すまで、妄想を続けた。ただ優希さんのことだけを考えていた。







 1時間後。


 やばい。


 やばい。待って。ヤバい。


 どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようドウシヨウ!!


 これはもう付き合うとか好きとか、それ以前の問題だ。大問題だ。


(私どう見ても怪しいやつじゃない!)


 そう。冷静になった私は、今日の自分の言動の異常性にやっと気がついたのだ。


 優希さんからしてみれば私はただの見知らぬ女性。そんな見知らぬ女性が突然相席し、次に出た言葉は「好きです。付き合ってください」。


 もうこの時点でアウト。色々アウト。


 だけど私は止まらなかった。


 次々と私の口から出てくる、優希さんに関する情報の数々。連絡先の交換は自然な流れだったかもしれないが、その流れでさらに冷静さを失い、やってしまった無断撮影。


 だけど一番ヤバいのは、そもそも私が優希さんの居場所を知っていたこと。


 もはや私はストーカーですと言っているようなものである。通報されてもおかしくない。


 そして最後に思い出すのは今日の帰り道。


 もしあのとき隠れていなかったらと思うと、ゾッとする。あのときの私の行動は、まさしくファインプレーだった。良くやったわ、私。


「………はぁ」


 いまの私の顔は真っ青に違いない。


 やってしまった。


(ほんとに、なにやってるのかしら……)


 少し前の後悔など比ではない。


 実際には、私はストーカーなどしていない。どれもこれも、ほとんど高校時代に集めた情報である。


 でも、今日の言動は誤解されてもおかしくないものだった。


 そんな私と付き合うなど、あり得るはずがない。


(………それでも、諦めたくはない)


 だから私は、一縷の望みをかけて、優希さんにメッセージを送った。


 遙》今日は突然すいませんでした。落ち着いて話がしたいので、またお会いできないでしょうか。


 スマホを前に、正座で返信を待つ。


 緊張でお腹が痛くなってきた。


 まだだろうか。もしかして、返信など来ないのではないだろうか。


 嫌な想像が飛び交う中、ピロン、と着信音が鳴る。


 優》分かりました。私もお話ししたいと思っていたところです。


 返信が来た。


 無視されなかった。


 私と話をしたいと言ってくれた。


 それだけで安心してしまう。喜んでしまう。


(冷静に、落ち着いて、私。さすがに単純すぎるわ)


 そうは思っても、胸の高鳴りは収まらない。


 私は指を動かし、優希さんと会う日時を話し合う。


 返信が来る度に、優希さんの言葉を見る度に、私の中に喜びが生まれる。


 そうしていると、後悔だらけの中で少しだけ自信を取り戻せた。


(今こうして優希さんと会話出来ているのは、今日私が行動したからなのよね)


 今日の行動は無駄ではなかった。


 怪しい言動ばかりだったけど、それでも私は優希さんに近づくことが出来たのだ。


(今日、会いに行ってよかった)


 私は心からそう思った。

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