表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
23/64

23話

 〇黒咲遥



 私の前に、一人の女の子がいた。


 懐かしい服を着ている。


 中学の制服だ。


『────』


 何か言っている。


 私に向かってだ。


 なんて言われたのだろうか。


 私には聞こえなかった。


 だけど何となく嫌な予感がして、私はその子から目を背けるように右を向いた。


 そこにも女子中学生がいた。


『────』


 また、何かを言われた。


 でも私には聞こえない。


 そういえば、ここは何処だろう。


 周囲を見渡す。


 黒板があった。


 その下には、段差のある床がある。


 ピアノもある。


 後ろにはロッカーが並んでいる。


 その上には、どこかで見たことがある肖像画。


 知っている場所だった。


 音楽室だ。


 中学校の音楽室。


 よく覚えている。


 毎日のように、私はここに来ていたのだから。


『────』


 いつの間にか、私の前にはまた女子中学生がいた。


 何かを言われている。


 嫌な感じだ。


『────』


『────』


 その両隣にも、女子中学生がいた。


 同じように、何か言っている。


 まるで、私を責めるように。


『────』


『────』


『────』


『────』


 右にも左にも、私を囲むように何人もの女子中学生がいる。


 誰も彼もが口を揃えて、私に何かを言っている。


 でも、誰の声も聞こえない。


 何を言っているの?


 嫌な気配を感じながらも、私は尋ねた。


『『あなたのせい』』


 女子中学生たちは、息を合わせてそう言った。









 温かい。


 気がつくと、私の腕の中に誰かがいた。


 誰?


 顔は見えない。


 私はこの人と抱き合っているようだ。


 ここは何処?


 薄暗い部屋だ。


 見たことがある。


 ああ、そうだ。


 思い出した。


 ということは、この人は……。


「優希さん?」


 返事はなかった。


 どうして?


 優希さんなのでしょう?


 声を聞かせて。


 返事はなかった。


 不安だ。


 すごく不安。


 でも間違いない。


 この人は優希さんだ。


 だってこの部屋は、優希さんの部屋なのだから。


 声が聞きたい。


 優希さんの声が。


 でも聞こえない。


 不安のあまり、私は優希さんを思いっきり抱きしめた。


「優希さん」


 ああ。


 温かい。


 優希さんの熱を感じる。


『────』


 ……。


 優希さんが、何かを言った。


 やはり、声は聞こえなかった。


『────』


 ……。


 嫌。


 やめて。


 言わないで。


『────』


『────』


 聞こえない。


 聞きたくない。


 どうして優希さんまで。


『────』


『────』


『────』


『────』


 ダメ。


 もうやめて。


 それ以上は。


 言わないで。


 聞きたくない。


 優希さん。


『黒咲さん』


 聞こえた。


 耳元で。


 優希さんの声だ。


 どうしたの?


 恐る恐る、私は尋ねた。


『さようなら』


 そして、優希さんは消えた。


 もう、どこにもいなかった。








「ん……」


 嫌な夢を見た、気がする。


 どんな夢だっけ?


 ……あまり覚えていないな。


 懐かしい感じもしたけど、いい夢ではなかった。


 それより、今は何時だろう。


 時計は……五時四十分、か。


 朝?


 違う、朝じゃないな。


 夕方か。


「んん……」


 部屋が明るい。


 電気がついてる。


 ここ、リビングだ。


 ソファーで寝てる。


 どうしてこんなところで……?


「ん?」


 右手が、なにかに触れている。


 何だろうか?


「え、……………………優希さん!?」


 眠気が一気に吹き飛んだ。


 私の右手を優希さんが握っていたのだ。


 私の手を握りながら、優希さんは眠っていた。床に座って、私が寝ていたソファーに頭を乗せて眠っていた。


 起きたら優希さんがいる。


 凄い。


 なにこれ凄い。


 こんなに贅沢なことがあっていいのだろうか。


 そしてさらに、その優希さんが寝ている。


 寝顔だ。


 寝顔が見える。


 可愛い。


 寝顔可愛い。


 握られた手と、可愛い寝顔。


 最高の目覚めだった。


 それにしても、どうして優希さんが……?


「ああ、そうだったわね……」


 思い出した。


 優希さんがこの家にきていたのだ。


 それで……何があったんだっけ……。


 う……頭が痛い……。


「ん……ああ、黒咲さん。ようやく起きたんですね」


「優希さん」


 残念ながら、起こしてしまったみたい。


「具合はどうですか?気分が悪かったりしませんか?」


「えっと……少し、頭が痛いわ」


「そうですか。じゃあ私、水を取ってきますね」


 あっ。


 手が……。


 行ってしまった。


「はぁ……う、うぅ……」


 頭痛が酷い。


 それに、頭痛だけじゃない。


 体が重い。


 起きて間もないからだろうか。


 あと、少し暑い。


 クーラーつけてなかったっけ。


 とりあえず、体を起こした。


「黒咲さん、お水持ってきました」


 持ってきてくれた水を半分ほど飲み、机に置く。


「ありがとう。それで、えーと……私、なんで寝ていたんだっけ……」


「覚えていないんですか?」


「えっと……」


 優希さんが家に来て、それから……そうだ。


 高校の卒業アルバムを見たのだ。


 あれは本当に恥ずかしかった……。


「卒業アルバムを見たのは覚えているわ。それからが……」


「そのあと、お菓子があるので食べないかと黒咲さんに誘われたので、ここでチョコレートと饅頭を食べていたんです。それから……その、えーと……黒咲さん、本当に覚えていないんですか?」


「……」


 そうだった。


 ここで、優希さんの隣に座って、そしたら優希さんが、いきなり私の頭を撫でてきて、それから…………。


「あ……」


「黒咲さん?」


 思い出した。


 それから私は、優希さんを、押し倒して……。


 あ。


 あああ。


 ああああああああぁぁぁ!!!!


「っ〜〜〜〜/////」


「もしかして、思い出してくれました?」


 こくこくと、私は頷いた。


 両手で顔を隠しながら、何度も首を縦に振った。


 私が何をしたのか。


 優希さんに何をしようとしたのか。


 全部、思い出した。


「うぅ」


 私何やってるのよ!?


 いやもう、本当に。


 どうかしてる。


「ごめんなさい、優希さん。……いきなり、あんな、あんなこと、してしまって」


「いえ、まあ……未遂でしたし、大丈夫ですよ」


 そっか。


 最後までは覚えていなかったけど、未遂だったのか。


 最後までやっていなかったのか。


 少し残念だけど、でも良かった。


 初めての記憶が無いとかだったら、最悪だった。


 そう思うと、少し落ち着いた。


「痛っ……!」


 落ち着いた瞬間、思い出したかのように頭痛が襲ってきた。


 ズキン、と頭に痛みが響く。


 なんでこんなに頭痛が……?


「頭痛、酷いんですか?」


「ええ……これは、頭痛薬飲んだ方が、いいわね……」


 薬は隣の部屋にあったはず。


 そう思いながら、立ち上がって歩き出したところで、突然、視界が歪んだ。


 歪んだと言うか、回っているような、揺れているような。


 なに、これ……。


「黒咲さんっ!」


 優希さんの、焦るような声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ