22話
〇湊優希
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あのー、黒咲さん?」
………………寝てる?
え?
寝てるの?
嘘でしょ?
さっきまで普通に話してたよね?
人ってこんな風に寝るの?
気絶するように?
電池が切れたロボットみたいに?
あれって、フィクションだけじゃないの?
「黒咲さん、大丈夫ですか?」
すぅ……すぅ……。
うん、寝てる。
完全に寝てる。
私の体をベットにして、私の肩を枕にして。
気を失ったように、眠っている。
……とりあえず、どいてもらおう。
「……これでよし」
ひとまず黒咲さんには、近くに置いてあったクッションを枕にして、ソファーで寝てもらうことにした。
ソファーの横に座り、黒咲さんの寝顔を眺める。
「……」
ついさっきまで、私を押し倒していたくせに。
それが今では私の目の前で、なんとも気持ちよさそうにすやすやと眠っている。
こんな無防備な姿で。
黒咲さんからしたら、さっきまでの私もこれくらい無防備に見えたのだろうか。
「はぁ…………」
心臓に悪い。
まったく。
本当に。
さっきのあれは、結局何だったのか。
いや、何をしようとしていたのかなんて、分かってはいるのだけど。
突然あんなことをしておきながら、今は目の前で安らかに眠っている黒咲さんの姿を見ていると、私にしては珍しくも、その黒咲さんが憎らしく思えてきた。
「えい」
ぷにぷに。
人差し指を、黒咲さんの頬に突き刺す。
ぷにぷに。
綺麗で柔らかい肌だ。
だけど、優香ちゃんの方が上だな。
優香ちゃんは更に弾力があるのだ。
あの触り心地に勝るものはないと思っている。
「えい、えい」
ぷにぷに。
しばらくの間、黒咲さんの頬を堪能した。
何故、黒咲さんは突然眠ってしまったのか。
思い当たる節は一応あった。
「このチョコかな……?」
それは、先程まで黒咲さんが食べていた海外のチョコレート。
これにアルコールが入っていて、急に酔いが回って寝てしまったという冗談みたいな推理が、一応あった。
けど、アルコール入りチョコのアルコールってそんなに強いものなのだろうか?
そんな疑問も浮かんだが、そんなことよりもっと重大な問題がある。
「どうすれば……」
このまま、黒咲さんを寝かせたままでいいのだろうか?
黒咲さんが起きるまで私がここにいれば、それでいいのだろうけれど。
しかし、一番の問題は黒咲さんの家族が帰ってきた時だ。
この状況をどう説明すればいい?
そもそも、挨拶をしなければいけないという問題がある。
やばい。
考えただけで、お腹が痛くなってきた。
とりあえず、黒咲さんを起こしてみるか。
もし起きてくれたら、ほとんどの問題は解決したようなものだ。
「黒咲さん。起きてください、黒咲さん」
ゆさゆさ、ゆさゆさ。
すやすや、すやすや。
「黒咲さーん」
ぐらぐら、ぐらぐら。
すぅ……、すぅ……。
「くーろーさーきーさーんー」
ぶるぶる。
ぶるぶる。
「……黒咲さん、意外と大きい」
新たな発見だった。
黒咲さんは着痩せするタイプのようだ(胸回り)。
私よりありそう。
なっちゃんよりは無い(断言出来る)。
だからと言って羨ましいかと言うと、別にそうでも無い。
なっちゃんに言わせると、使い道のない巨乳ほど邪魔なものは無いらしい。
使い道って。
まあ、肩がこるとかはよく聞くし、いい事ばかりでもないのだろう。
私は妹である優香ちゃんに負けなければいいかな、くらいに思っている。
「起きないな、黒咲さん」
ソファーの横に座り、再び黒咲さんの寝顔を眺める。
「ん、うぅ……」
「黒咲さん?」
「……ん、んんぅ…………ゆう、き……さん……」
……起きてはいないみたい。
寝言だった。
夢でも見ているのだろうか、私の名前を呼んでいたけど。
「……や、ぁ……」
少しだけ、寝顔が苦しそうに歪んだ。
うなされている?
「はぁ……まぁ、いいか。起きるまで待ってよう」
最終的に、無理に起こすのも悪いと思った私は、黒咲さんの目覚めを待つことにした。
あるいは、考えることを放棄したとも言う。
 




