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百合の話(仮題)  作者: ねこのぬいぐるみ
15/64

15話

 ○黒咲遥



 でもその前に、と優希さんは続けた。


「聞きたいことがあります」


「聞きたいこと?」


「黒咲さんのことです」


「私の」


「そうです。そもそもですね。黒咲さんは私のこと、色々と知っているみたいですが、私は黒咲さんのことを全然知らないんですよ」


 ということで、優希さんの質問に答えることになった。


 優希さんがクッションの上に座り、私も対面側に座る。


 ちなみに優希さんが座っているクッションは白猫柄だった。私が座っている黒猫柄のと色違いだ。優希さんは猫が好きなのかもしれない、と私は頭の片隅に記憶しておいたのだった。






「まず最初は…………黒咲さんは、私のどこが好きなんですか?」


「ごふっ」


 むせた。


 お茶が、のどにっ……けほっ。


 というか、初っぱなからなんて質問を。


 優希さん、容赦が無いです。


「あ、だ、大丈夫ですか」


「ええ……。それで、えと、優希さんの好きなところ、よね」


「はい」


「……これは、絶対に言わないと、いけないのかしら」


「絶対ではないですが……、いえまあ、いきなりこんなこと聞かれて困るのも分かりますけど、私もどうして黒咲さんが私のことを好きなのか、かなり気になってるんです。ほら、黒咲さんは高校で私のことを知ったみたいですが、接点は全くなかったじゃないですか。それなのに、いきなり告白されたわけですから。それに、つ、付き合っている相手がどこが好きなのか知りたいと思うのは、自然なことですし……」


「ま、まあ。そうね、そこまでいうなら………………」


「はい」


「………………………………えと、まず、顔が好きです」


「顔ですか」


「…………あと、雰囲気が好き、というか」


「雰囲気?」


「うん、その、最初はその雰囲気に引かれたのよ。高校では優希さん、結構クールな感じだったでしょ?それがなんていうか、いいなと思って。それで、顔もかなり好みで、それからどんどん好きになっていったというか……」


(うぅ……、なにこれ、恥ずかしすぎる……)


「クール……?」


「その、もう、これくらいで、いいかしら……」


 もう無理だった。


 たった二つしか言ってないけど。


 もう、限界だった。


 何がって、いろいろと。


 特に体温。話してる途中から、すっごい熱くなってきたし。


 何か汗も出てきたような気がする。


「あ、はい。本当は、もう少し聞きたいところですけど……それより、私って高校の時、クールでしたか?」


「え、ええ。今とは随分雰囲気が違ったわ。でもあの優希さんも、あれはあれでとても良かったわね」


「今と、違うんですか」


「ええ。学校とプライベートでこんなにも様子が違うなんて思わなかったわ。でも、その違いがまた、いい感じで……。ふふ」


「そうですか……。ちなみに、今はどんな感じですか?」


「そうね。今の優希さんは、学校の時に比べてずいぶん可愛らしい感じね」


 普段の無表情には、高校で私が惹かれたあのクールさが残っていて、そこに時々優希さんの可愛い一面が顔を出すのだ。


 簡潔に、良い。


「か、かわ………………。そ、そうですか。そういえば私、さっき高校では接点がなかったって言いましたけど、私と黒咲さんが話したこと、本当に無かったんですか?私が覚えてないだけとか……」


「ああ……実は、何度か、会いに行ったことはあるのよ」


「あ、やっぱり、私が忘れてただけでしたか。すいません。……でもまあ、そうですよね。じゃないといきなり告白なんて」


「ああ、いえ、その、会いに行ったのだけど、何を話せばいいのか分からなくなって、結局声を掛ける前に、逃げてしまって……」


「え…………、じゃあ、あれですか。この前告白したときが、初めての会話だったと」


「……ええ」


「そもそもあの日、初めて会ったと」


「……そうね」


「それは…………なんか、すごいですね」


「すごい、かしら?」


「はい。いろいろすごいです、黒咲さん」


 よく分からないけど、すごいらしい。


 何が?とは、優希さんが次の話題に移ったため、聞くことはかなわなかった。


「そういえば、この後のことですけど、黒咲さんは具体的に何をしたいんですか?」


「何を……?」


「ほら、この後、私と何かしたいことがあるんですよね?」


 と、そこまで言われてようやく思い出した。


 いきなりあんな質問をされて忘れかけていたけど、そういえばそんな話をしていたのだった。


 話というか、私が一方的に、願望を述べただけだったような気もしなくはないけど……。


 そんなことより、だ。


 どうしよう。


 なんて答えれば良いんだろう。


 正直に言って、何をするかなんて全くなんにも考えていなかった。


 というか、優希さんはその辺りのことを一切合切何も聞かずにいいですよと言ってくれたわけだけど、それってどうなんだろう。


 優希さん的には、どれくらいまで、いいのだろうか。


 ……キス、とか?


 い、いや、それはさすがにいきなり過ぎる。


 段階を飛ばしまくっている。


 そう。段階とか、順序とか、そういうのは大事だとよく言われているじゃないか。


 だけど、だけれども。よくよく考えてみれば、私と優希さんは既に映画館に行ったりして、手も繋いでいるわけで。


 デートとかスキンシップとか、その辺りの段階をすでに通過しているとなると…………段階というなら、すでにキスをしてもいいのでは…………?


 いやいや、ちょっと待て。


 落ち着きなさい私。


 そもそも私と優希さんはついさっき付き合い始めたばかりなのだ。


 あ、でも、付き合ってるなら……。


 うぅ……ああもう、どうすれば────


「黒咲さん?」


「あ、ごめんなさい。その、いざ聞かれると、迷っちゃって」


「ん?…………もしかして、特に決めてなかったんですか?」


「う、うん。まあ、そうね」


「えっと。………。じゃあ、もしかして、あれですか。ただ勢いで言っただけ、とかですか?」


「その、通りです」


「え。…………なんか黒咲さんって、意外と……」


「ん?意外と?」


「いえ…………、ふふ」


 クスリと笑った優希さん(かわいい)は、なんでもないです、と言いながらお菓子に手を伸ばしていた。


 え、いや、ちょっとまって。


 意外と、って何?


 何で笑ったの?


 何でまだ微笑んでるの?


 何でそんなに上機嫌にお菓子食べてるの?


 ていうか何でそんなに可愛いの優希さん?


「それで、黒咲さん、本当に何もないんですか?やりたいこと」


「え?い、いや……、別にないわけではないけれど」


 たとえば、たとえば…………、えっと、そう、キスとか。


 あと、デート、は時間的に微妙だし……、えと、他には何か……。


 ああもう、いつもだったらいくらでも出てくるのに……。


「その、k……、いや、やっぱり、なんでもないわ」


「……?そうですか。じゃあ、この話は一旦保留にしておきましょうか。なにか思いついたら、いつでも言ってください。……その、せっかく付き合い始めたことですし、何でも、とはいきませんが、ある程度のことならオッケーですので……」


「わ、分かったわ」


 そのある程度がどの程度なのかを、知りたいところなのだけれど。


 しかし、優希さんがそう言ってくれたように、ちょうど良い程度の案が思いついたら、言ってみても良いかもしれない。


 なにか本来の趣旨を見失っているように気がしなくもないが、そもそも趣旨なんて無かったような気もするので、これでいいと自分を納得させる。


「それにしても、世の中の恋人たちは、付き合った初日にどういうことをしているんでしょうね。そういうの、黒咲さんは気になりませんか?」


「そう言われると、確かに気になってくるわね」


 私はこうして恋人の家に呼ばれていて、そのことに対し、急すぎないかしらとか優希さん不用心すぎないかしらとか思っていたけど、そう考えると世の中にはそういう人も結構いるのかもしれない。


「……黒咲さん、そんなこと思ってたんですね」


「えっ……!く、口に出ていたかしら……?」


「はい。確かに、少し不用心だったかもしれないですね」


 不用心なのは、どうやら私もだったみたい。


「その、ごめんなさい。でも、こうして家に呼ばれるのって、なんだか優希さんに認めてもらえたような気がして、私としては結構嬉しかったのよ」


 それも私が行ってみたいとお願いしたとか言う訳ではなく、むしろ優希さんから来てみませんかとお誘いを受ける形でお宅訪問させてもらっているわけである。


 もし私が優希さんに嫌われていようものなら、もしくは嫌いとまでは行かなくとも、そこまで好意的に見られていなかったら、こうして優希さんの方から誘われるようなことはないと考えていいと思う。


 要するに、優希さんの家に呼ばれる程度には、私は優希さんと親しくなれていると、そう実感できたのだった。


「それなら良かったです」


「でもやっぱり、私が言うのもおかしいけれど、私みたいな素性の知らない人を気軽に家に上げるのは、控えた方が良いと思うわ。………本当に、私が言えた事じゃないと思うけど」


「あはは……。心配してもらえるのは嬉しいですけど、それは大丈夫ですよ。心配ご無用です。それに、素性を知らないと言えるほど薄い関係でもないですし。そもそも…………、いえ、そもそも、黒咲さんだから、こうして家に招いたんですよ」


「私、だから……?」


 優希さん、それ殺し文句では。


「はい。他の人だと、こうはなっていないと思います。黒咲さんは知らないかもしれませんが、私がこうして黒咲さんと話しているのって、私的には結構すごいことなんです。だから……、そうですね。私は、黒咲さんと出会えて良かったと、そう思っていますし、だからこそ、黒咲さんと付き合おうと思ったんです。喫茶店では、色々と付き合う理由みたいなことを言いましたけど、結局の所、一番の理由は、黒咲さんだから、と言うことなんです」


「っ………///」


 まるで告白でもしているかのように話す優希さんを見て、こっちが堪えきれなくなった。


 赤面必須だ。


 というか優希さん、私のことまだ(恋愛的に)好きじゃないとか言ってなかったっけ。


 なのに何、今のは?


 好感度高すぎじゃないかしら?


 私あんなこと言われるほど、優希さんに何かしたかしら?


 もちろん、優希さんとの仲が深まるに越したことはないのだけど。


 ……ん。


 ……仲が深まる、か。


「優希さん、私との仲を深めたい、みたいなこと言っていたわよね」


「え、っと、確かにそんな感じのこと、言ったような気がしますが……、いきなりどうしたんですか?」


「他人と親密になるには、スキンシップがいいとか、聞いたことない?」


 テレビか、マンガか、それとも別の何かかは忘れたけど、そんな話を聞いたことがあるような気がする。


 正直うろ覚えで、全く関係性のないことかもしれないけれど、この際そんなことはどうでもよかった。


「言われてみれば、聞いたことある気もします」


 そして幸いなことに、優希さんも覚えがあるらしい。


 そんな優希さんの言葉を聞いて調子に乗ったこの時の私は、間違いなく自制心を失っていたと、後になって思う。


「優希さん、さっきの保留にした話だけど」


「はい。あ、なにか思いついたんですか?」


「ええ!優希さん、私のことを自由にしていいから、なにかスキンシップしてくれないかしら!」



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