11話
○湊優希
翌日。
映画館。
チケット販売機前。
私たちは午前中にゲーセンや本屋に行き、昼食を食べたのちに予定通り映画を見に来ていた。
「それで、この映画でいいの?」
「あ、私と真雪はこっちのにして」
「え、ちょっ、ちょっとりなちー!?」
という既視感のあるやりとりをした後、私となっちゃんは例のラブコメ百合映画、莉奈と真雪は男性アイドル系アニメ映画を見ることになった。
上映開始時間が私たちの方が早かったので、二人と別れて先に場内へ入る。
「なっちゃんは見たことないんだよね」
「うん。そういえば、今更だけどゆっきー2回目なのに良かったの?」
「別に気にしないでいいよ。もう一度見たいと思ってたから」
前回は途中からあまり集中できなかったから、もう一度見たいと言うのは本当だ。
「そっか。それなら良かった」
劇場は前回と同じ番号の所だった。
席は中央辺り。
今回はポップコーンも買ってある。黒咲さんの時は食後すぐに見に来たから買わなかったことを思い出した。
そうこうしているうちに場内は暗くなり、映画が始まった。
三時間後。
ファストフード店。
「神映画だった。めっちゃ感動した」
と語るのは真雪だ。
「めっちゃ妄想した、の間違いじゃない?」
となっちゃん。
「は、はあ!?妄想とかあり得ないから。勘違いしないで!」
「真雪、ツンデレみたいになってる」
「真雪は何を妄想したの?」
分かっていたが、確認の意味も込めて私は尋ねてみた。
「真雪のことだから、アイドル同士のくんずほぐれつを脳内で繰り広げていたに違いない」
「違うから!いかがわしい事なんてナニも考えていないから!」
「え、なに、りなちーたちが見た映画ってそういうやつだったの?」
「全然。健全な美少年たちのアイドルと青春の話だった」
「そうだよ。とっても健全なんだよ!」
「……それよりそっちはどうだった?」
莉奈の質問に答えたのはなっちゃんだった。
「神映画だった。めっちゃ感動した」
真雪と全く同じ感想である。
「なっちゃんはどの辺りが良かったの?」
私も気になったので聞いてみた。
「もう、後半が神がかってた。めっちゃ良かった。……でも一つだけ許せないというか、話の都合上仕方ないとは思うんだけど、それでも個人的にダメって言うのが一つあるんだよね」
「そんなにダメなところあったかな?私は全体的に良かったと思うけど」
何かあっただろうか。
「主人公がいなかったら最高だった」
「それもうラブコメ成立しないじゃん」
真雪ツッコミに私は心の底から同意した。全くもってその通りだった。
「そうだけど、でもあの男にラナが穢されたと思うと、私はどうしても許せないのよ!あの男がいなかったらミキとラナのいちゃいちゃをもっと見れたのに!」
ちなみにラナが主人公に振られた女の子で、ミキがラナに告白した女の子である。
そんな風に映画の感想を言い合っていると、莉奈が腕時計を見てからこう言った。
「なっちゃんは置いといて、それよりそろそろ帰らないといけない時間」
「もうそんな時間かー」
現在の時間は十七時半くらい。
向こうまで二時間と少しかかるので、早めに帰った方がいいだろう。
そういうことで、私たちは店を出て駅へと向かった。
そこまで広くない歩道のため、二人ずつ並んで歩く。私の隣はなっちゃんだ。
「ねえ、ゆっきー」
「なに?」
「また来てもいいかな?」
「私はいつでも大丈夫だよ」
「そっか。じゃあまた来るから」
「うん、わかった」
とりとめのない会話をしながら駅へ向かい、そして私は友人たちと別れた。
帰り道は一人。
賑やかで心地のいい雰囲気に包まれた二日間はあっという間に終わってしまった。楽しかった分だけ、一人の時の寂しさが際立つ。
普段は一人を好んでいるのに、誰かと別れると決まって寂しさがやって来る。
私は自分で思っているよりも案外寂しがり屋なのかもしれない。ここ最近は珍しく人に会うことが多かったので、自分の中の孤独感が浮き彫りになっているように感じた。
おかしな話だ。
自分から人と関わらないようにしてきたのに。
いや、おかしくはないのかもしれない。
誰かと別れるから寂しいのであって、そもそも誰にも会わなければその寂しさを感じることもないのだから。
そういえば、私が人と話さないようになって随分と経つ。
きっかけは小学校の頃だった。五年生の時だ。
その頃の記憶は高校の時も思い出したし今でも覚えているが、しかしその内容はかなり不鮮明でおぼろげになってしまった。今思い出してみても、五年生の最初の頃なんて全く覚えていない。覚えているのは、二学期の後半辺りからだろうか。
校外学習などのイベントや、校内でのちょっとした出来事。その大半はいい思い出ではなく、だからこそ人と話すことが少なくなっていった、のだが……。
(そもそものきっかけって何だったっけ?)
もしかしたら、きっかけと呼べるようなものは無かったのかもしれない。その辺りのことも私は覚えていなかった。
「はぁ…」
嫌な記憶を思い出したら少し憂鬱になってしまった。
そんな暗い気分を掻き消すように昨日今日のことを振り返りながら私は家に帰ったのだった。