097 やはり仕事のできる男だった
翌日、いつも通り使用人として出勤した瞬間。
なぜか大公様に呼び出された。
何かトラブルだろうか、先日のアンナの件かもしれない。
一応、俺は被害者となっているのだし。
「お呼びでしょうか、大公様」
「来たか、アレクシス。いや、アレクシス勇爵」
ん、あれ?
今、アレクシス勇爵と言わなかったか?
「驚いた顔をしているな。案ずるな、話は帝国より聞かされている」
どうやら、俺の正体が明かされていたようだ。
昨夜のうちに皇帝陛下と大公様が即時会話が可能な魔道具でコンタクトを取っていたそうだ。
仕事から帰って来たリンシアとリリーと、ひーこら言っていたアンナで、あんなことやこんなことをしている間に話が進んでいた。
大公様はニーナが帝国へ渡り、皇帝陛下になることにおおむね合意だそうだ。
最初は勿論、帝国の話を信じることができなかったし、難色をしめしていたようだが……。
なんと、皇帝陛下が頭を下げたらしい。
圧倒的な大国の主が、小さな公国に向けてだ。
とんでもない話である。
その覚悟を悟り、大公様は真面目に皇帝陛下の話を聞き始めた。
で、ニーナの今後だけれど。
いずれ、勇者であることを世界に公表する予定らしい。
勇者はどの国でも物語として語り継がれる有名人だ。
それに加え、帝国は過去の勇者が作り上げた国であるということも同時に伝える。
今は帝国の成り立ちなんて覚えてる国はないからね。
じゃあ、なぜ今すぐ勇者であることを公表しないのかというと。
勇者が存在するということは、魔王も復活したということ。
一部の国は既に察し始めているかもしれないが、ここ何百年以上平和な時代が続いていたところに、そのニュースはあまりにも衝撃的すぎる。
帝国が勢力を強めようとしているだけだと邪推する国も出てくるだろうし、余計なトラブルも起きかねない。
根回しを全力で行い、混乱が最小限で収まるように調整してから公表を行うとのこと。
仕事の速いことに定評のある皇帝陛下だから、きっとすぐに根回しもやってしまうのだろう。
というわけで、しばらくニーナは公女殿下のまま。
時が来れば、皇帝陛下の後継ぎとして皇太女になる予定だ。
「本日付でアレクシス勇爵をリンシア勇爵同様、ニーナの側仕えとする。どうか、娘を頼んだぞ」
「かしこまりました。どうぞお任せください」
新人使用人から公族のお世話係に大出世である。
お世話係といっても、普通のお世話じゃない。
いずれ皇帝陛下になるのだから、最低限のコミュニケーション能力を鍛える手伝いと。
後は禁術魔法の使い方を練習する。
聖剣を手にしたことで、心象魔法だけでなく、攻撃、補助、治癒系統全ての適正と術式を授かったみたいだからね。
別に羨ましいとか思ってないぞ。
本当だ。
どうやらリンシアもこの後、大公様と面談を行うらしい。
内容は俺に話したことと同じだ。




