096 実質無限
ニーナは困惑したままだが、ひとまず勇者であることの確認ができたこと、そして今後の方針が決まったので公国に戻ることにする。
公女殿下が部屋から消えてるとバレたら一大事だからな。
「――陛下、ご報告したいことが」
のわ、いきなり密偵が皇帝陛下の隣に現れた。
「聞こう」
「連邦国より南の海域にて巨大な嵐が発生しました。恐らくは、魔精霊ウンディーネによるものかと」
まるでニーナの覚醒に合わせたかのようなタイミングだ。
今まで補足することができなかった魔精霊ウンディーネの居場所がついにわかったという感じだろうか。
「状況は」
「現在も嵐は勢力を強めております。凄まじい破壊力故、近づくことができませんが、同じ場所に停滞しているようです」
現在も同じ場所に停滞しているのは、そこが魔王の魔力の供給源なのかもしれない。
魔精霊シルフィードも供給源から遠くには移動しなかったので同じなのだろう。
それはつまり、自分の居場所を教えてきているということなのか?
かかってこいとでも言っているのかもしれない。
「報告ご苦労、引き続き監視を続けよ」
「かしこまりました」
返事をした密偵の姿が消える。
「聞いての通り、魔精霊ウンディーネが姿を現したようだ。決戦の時は近い、各自備えておくように」
各々が返事をする。
第三柱・ウンディーネとの決戦か……。
恐らくは、魔精霊シルフィードの時よりも遥かに激しい戦いになることが予想される。
神から授けられた禁術魔法を使いこなせるよう、存分に準備にあたらないと。
ひとまず、ウンディーネと接触するにしても敵は海の上だ。
俺は泳げないので、どうにかその場所まで移動する方法を考えなければならない。
後日、即時会話可能な魔道具で皇帝陛下が作戦を伝えてくれるそうだ。
今度こそ転移で公国に戻った。
リンシアはまだ勤務中で、リリーはその護衛ということなので、俺だけ公国にある帝国の拠点に転移で戻ることにした。
「あ、アレクシス! さっきはよくもやってくれたわね!」
自分の部屋に戻ると、アンナがそう訴えかけてきた。
どうやら、ついさっき眼を覚ましたばかりのようだ。
メイド服がはだけ、あられもない姿になっている。
「ああ、ただいま」
「ただいまじゃないですー! やられたままじゃ気が済まないわ、やりかえしてやるんだから!」
アンナが「うがー!」と威嚇ポーズをとる。
ほう、そうかそうか、相手をしてくれるのか。
ニーナの心象魔法による魅了で欲求不満になっていたところなんだ。
リンシアもリリーもまだ仕事中だし、ちょうどよかったぞ。
「え、待って、なんで。さっきより大きくなってない? アレだけしたのに……? うそ、え、ちょ……」
残念ながらリンシアに教えた禁術級のスタミナ回復魔法は持続式なのだ。
リンシアが術式を発動している限り、俺の魔力を精力に変換し続ける。
たとえどれだけ放出しようとも尽きることの無い無限のエネルギーなのだ。
嘘、無限ではないけど俺の魔力が尽きるまでは持続する。
実質無限だ。
「さて、やりかえしてもらおうか」
「いやまって! おかしいって! さすがにそれは無理だって! 今度こそ無理だって!」
「大丈夫、アンナは俺が認めた女だ」
「んぁ————————————っ!!」




