094 不可侵神聖領域術式理論
手を伸ばし、そっとニーナに触れる。
刹那、手を伝って何かが流れ込んでくる感覚がした。
真っ白で、途方もなく、膨大な――、
――――――――――――――――――――。
ああ、この感覚を知っている。
あの時。
魔精霊シルフィードと戦っていた時と同じだ。
聖精霊サラマンダーを呼び出すとき、強引に俺が入り込んだ理論。
その正解が目の前に広がっている。
不完全な俺という人間が考えた、穴だらけの召喚術式ではなく――、完璧な召喚術式。
なんて美しいんだ。
なんて無駄がないんだ。
俺の考えた召喚理論なんて、子供の遊びでしかないと思えるような。
それほどまでに完璧な術式なのだ。
頭の中に刻まれていく。
神の力を人間の肉体であったとしても使用できるように落とし込まれた術式が。
――真理が。
「――――――――――――っあ!」
戻って来た……?
今、俺はどうなってた。
意識が飛んでたのか?
「ふ、ふぇ!? みんな大丈夫!?」
「アレクシス、リンシア、リリー。何が起きた」
慌てるニーナと皇帝陛下の声が聞こえる。
身体から噴き出る汗が止まらない。
そうだ。
今、俺は。
人知を超えた圧倒的なものを見せられて衝撃を受けているのだ。
神、アーネリアフィリスの配下である聖精霊の正式な召喚理論を見せつけられて。
「……問題、ありません。ちょっと最近、どうすれば強くなれるか悩んでたんですが、目標が明確に見えました」
「で、あるか。ならばその目標に向けて進むといい」
「はい、そうします」
禁術魔法の術式と共に、聖精霊の知識も叩き込まれた。
聖精霊には第一柱から五柱まで順番がある。
第一柱は俺が一度召喚したサラマンダーだ。
あの時は不完全な状態での召喚だったが、術式を叩き込まれた今なら安定して、より強力な状態で召喚できるだろう。
次に第二柱・聖精霊ジン。
そして第三柱・聖精霊リヴァイアサンと続く。
第一柱から第三柱までは強さにそこまでの差は存在しないようだが。
問題は第四柱以降。
第三柱までとは次元が違う。
今の俺では力の一部だったとしても召喚は不可能だろう。
あまりにも強大な力を保持しており、無理に発動させれば魔力切れで即死する。
そう、一般の人間が禁術魔法を使ったら死んでしまうように。
当面の目標は第四柱、第五柱の聖精霊を召喚できるだけの力を付けることだ。
そのための道筋も示された。
不可能ではない。
俺になら、実現可能であるとわかった。
魔王を倒せるだけの力を手に入れるんだ。
「二人は、どうだった」
俺と同じように息を荒げ、汗をかくリンシアとリリーに声をかける。
「今のわたしでは授けられたすべての力を発揮するのは難しそうです。ですが、いずれ使いこなせるようにしてみますよ」
「リリー、おっきくなる。がぉー」
どうやらリンシアも俺と同じような状況らしい。
そしてリリー、それだけじゃ全くわからんぞ。
一体どんな禁術魔法を授かったのか。




