091 ちなみに俺は最初から酔わなかった
「ん。アレク、来た」
「時間どおりですね、アレクシス様」
転移が完了した俺に二人が声をかけてきた。
ああ、時間通りだとも。
時間までに終わらせてきましたけど。
「くんくん。アンナ、抜け駆けしてる。今晩はお預け」
「それはいけませんね、私達は任務中だというのに。ね、アレクシス様?」
バレてる。
リリーの嗅覚の前で隠し事は不可能だった。
はい、ごめんなさい。
「さて、ニーナさん。彼が事前にお話させていただきました、アレクシス様です。勇者パーティーの大魔法使いであり、凄い魔法を使う方ですよ」
ふとリンシアの背後に視線をむけると、いた。
ニーナがのぞき込むように俺を見ていた。
「ご紹介にあずかりました、アレクシスです。どうぞよろしく」
二度目となる挨拶を行うと、ニーナがリンシアの後ろから出てきた。
「ニーナ・シュレンドールです。よろしくお願いします」
前回の様なたどたどしさが無くなっている。
「今からニーナさんには帝国に向かっていただきます。もちろん、大公様には内緒ですよ?」
「うん、わかった」
「それじゃあ、さっそく転移するから。みんな、俺の近くに集まって」
三人が魔法発動範囲まで近づいたことを確認したら、術式を構築する。
一度に転移できる人数は多くても五人程度だろうか。
俺自身を転移させるのはそこまで魔力を消費しないけど、他人を転移させるとなると途端に魔力消費量が上がる。
三人転移させようと思ったら、余裕で火竜の魔法を発動させられるレベルだ。
魔方陣が足元に広がり、眩い光が放たれる。
準備完了だ。
「よし、飛ぶぞ」
刹那、視点が切り替わる。
以前、皇帝陛下に連れられてやってきた帝国宮殿の庭だ。
そして視線の奥には――、台座に刺さる聖剣カラドボルグが存在した。
「うっ……」
「うぷっ……」
「ふぇ……」
あれ、リンシアとリリー、そしてニーナがその場にかがみこんだ。
「どうした、大丈夫か?」
「は、はい……なんとか……。初めての感覚でしたから……」
「揺れる馬車、乗ったみたい。うっぷ……」
「あ、だめ」
ニーナが口を抑え、一目散に木の裏へ走っていった。
どうやら、気持ち悪くなってしまったらしい。
転移する際は独特の感じがある。
何というか、全身を揺さぶられるような。
俺は慣れてるから大丈夫だけど、初めての三人には少々キツかったようだ。
転移酔いというやつかな。
リンシアが治癒魔法を発動させたので、すぐに復帰していた。
「アレクシス、リンシア、リリー。任務の遂行ご苦労。そしてニーナ、よく来てくれた」
おっと、皇帝陛下が待ち構えていたようだ。
木陰から出てきたニーナはフラフラとしながら皇帝陛下に会釈する。
治癒魔法により気持ちの悪さは無くなっているだろうが、まだペースがつかめていないようだ。
さっきまで部屋に引きこもってたからな、仕方ないね。




