009 リンシア先生の禁術魔法講座
禁術魔法というのは、文字通り禁じられた魔法である。
かつて魔王が世界を恐怖に陥れた際、勇者たちが使っていたとされる魔法だ。
だが、勇者が魔王を倒したのは遥か昔。
実在していた魔法も、やがて忘却されていった。
忘却されていった理由についてだ。
禁術と呼ばれる魔法は、どれも凄まじく消費魔力が高い。
高いが故に、普通の人間が発動させれば即座に魔力切れになり死んでしまうとのこと。
かつての勇者一行ほどの魔力を持っていなければ扱えない魔法なのだ。
使える者がいなければ、いずれ潰える。
「そう! 禁術魔法が使えるわたしたちは、神に選ばれた特別な存在なのです!」
乗合馬車で凄まじいテンションで力説する美女と、俺。
他の乗客がいなかったのは幸いだ。
俺は今、リンシアと共に帝国へと向かっている。
今さら行く当てなんてないし。
それなら俺と境遇の被るリンシアに付いていくのも悪くないと思ったからだ。
王国の国境付近の町まで徒歩で歩き、そこから帝国に向かう乗合馬車に乗って移動している最中。
馬車の代金も、道中の食料も、全てリンシア持ちだ。
……今は返せるものが何もないからな。
帝国に到着して、正式に雇ってもらえれば、旅路での借りはすぐに返せるだろう。
にしても、リンシアのテンションは上がる一方だ。
御淑やかな雰囲気はどこに行った?
黙っていれば美人なのに。
「リンシアはどんな禁術魔法を使えるんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! わたしが得意とするのは主に治癒系統です!」
禁術魔法にも、色々と系統があるらしい。
それは俺が学園で学んでいた魔法の内容と同じだ。
魔法には「攻撃系統」、「補助系統」、「治癒系統」の三つが存在する。
リンシアの場合は「治癒系統」が得意で、「補助系統」が少し使えるといった具合。
治癒系統は文字通り、治癒を行う魔法。
王国では肌の潤いを保つために使われていたが……リンシアの使う禁術魔法の場合、即死以外の怪我であれば病気も含め、すべて治癒できるそうだ。
規格外にもほどがある。
俺の足も一瞬で治ったわけだ。
それでもう一つの補助系統、こちらは結界魔法や肉体強化魔法などが分類される。
一応使えはするが、治癒魔法には劣ったり、発動に時間がかかったりするらしい。
劣るとはいえ禁術魔法、通常の人間が使う魔法からすれば次元が違うそうだ。
そして俺の場合。
どうやら「攻撃系統」に一番適正があり、「補助系統」がリンシアと同じぐらいとのこと。
グランドル伯爵の前で即座に結界魔法が使えなかったのはこのためだ。
適性が無い場合はその系統を使うことができず、俺は治癒魔法が使えない。
リンシアは攻撃系統の魔法が使えないといった具合だ。
また、死の淵に瀕した際には、実力以上の禁術魔法を使えるとも。
奥が深い。