088 どうやら、私生活はだらしない人らしい
密偵に教えてもらった住所の扉をコンコンコンと叩く。
反応はない。
「アンナ先輩、居ますか? アレクシスです」
……やはり反応はない。
いないのだろうか。
公族の屋敷からもリゾート地帯からも離れた場所に存在する、如何にも安そうな集合住宅。
際どいアンナ先輩、こんなとこに住んでたんだな。
ドアノブに手を伸ばし、回しながら引いてみると——、
「……開いてる」
鍵はかかっていなかった。
中にいるか確かめる為にも、足を踏み入れてみる。
床には脱ぎ捨てられた服や日用品が散らばっている。
なんとも生活臭が溢れていた。
あんなに手際よく掃除するのに、自宅はあまり綺麗にしていないようだ。
「……ひっく……うぅ……」
部屋の奥から静かにすすり泣くような声がしてきた。
聞き覚えのある、際どいアンナ先輩のものだ。
よかった、まだ失踪したりはしてなかった。
奥に進むと、テーブルに頭を突っ伏している際どい格好をしたアンナ先輩の背中が見えた。
パンツは履いているが、ブラはしてない。
なんちゅう格好して泣いてるんだ。
床には飲み干したと思われる酒瓶が複数転がっている。
「アンナ先輩」
「ふぅう……アレクシスの幻聴が聞こえるぅ……もう会えないのにぃ……」
かなり酔っぱらっているようだ。
際どいアンナ先輩、朗報です、幻聴じゃないですよ。
「アレクシス様、近づいて声をかけてあげてください」
リンシアが、小声でそう言った。
コクリと頷き、覚悟を決める。
際どいアンナ先輩の横に立ち、そっと背中に手を置いた。
ピクンと、反応が返ってくる。
泣きながらお酒を飲んでいるせいか、際どいアンナ先輩の背中はかなり熱かった。
「アレク……シス……?」
顔を上げながら俺を見て、そう言った。
膨らみのある柔らかなものが揺れる。
小柄の体形にしては大きい。
「はい、アレクシスです」
「どうして……ここに……。わたし、アレクシスに酷い事した。自分を抑えきれなくて……うぅ……許される事じゃないよぉ……」
際どい先輩は俺を見つめながら、ポロポロと泣き出した。
「いえ、アンナ先輩のせいじゃないですよ。全部、俺が悪いんです」
「この女たらしがぁ……慰められたらもっと好きになるだろがぁ……ふわああぁぁぁ——ん!」
えーっと、どうしようか……。
リンシアとリリーに助けを求めようと背後を振り返ると、ガッツボーズをして応援された。
助け船はなしですか、そうですか。
はい、頑張りますよ。
「俺は魔法使いです、アンナ先輩があんな行動をとったのは俺が魔法をコントロールできてなかったからなんです」
ニーナに対してコントロールできるようになると言った手前、恥ずかしい失態であるけども。
「だから、アンナ先輩は悪くありません。むしろ俺が謝らないといけないんです。ごめんなさい、アンナ先輩」
「ふ……うぅ……アレクシスぅぅぅぅ————」
俺の胸に頭を押し付けながら涙を流す泣き虫なアンナ先輩を、よしよしと頭を撫ぜ続けた。




