087 ほっとけるわけがないんだよなぁ
あの後、騒ぎを聞きつけた大公様が事態を収拾するため、使用人たちに事情聴取が行われた。
どうやら他の使用人には、際どいアンナ先輩が告白をし、フラれてしまったが、何とか後輩使用人を自分のものにしようと襲い掛かったように映ったらしい。
最後に、俺の事象聴取が行われた際、「アンナ先輩は悪くないんです、全部俺が……」と訴えかけようとしたところ……。
「他の使用人から聞いた、アレクシスは優しい心を持ち合わせているとな。被害を受けてもなお、アンナを庇おうとしているのだろう」
と言われた。
いや、そういう訳ではなくてですね……。
使用人の仕事をし始めてから無意識に周囲を魅了、そして真面目に取り組んでいたところ俺の印象は最高潮に高まっていたようだ。
真面目で優しく、一番近くにいた際どいアンナ先輩が惚れてしまうのも仕方ないだろうと。
だが、本人の意思を無視して襲うのは許される事ではない。
鉄槌が下ったのだ。
完全に俺が被害者のストーリーが仕上がっている。
どう弁明しようとも、俺の非を認めてくれない。
際どいアンナ先輩の解雇は覆りそうになかった。
ついでにリリーが床に空けた穴も際どいアンナ先輩のせいになっていた。
……完全に俺のせいだ。
禁術魔法により、一人の人生を狂わせてしまった。
こんなことがあっていいわけがない。
とぼとぼと帝国の拠点に歩いて帰る。
どうしてこんなことになってしまったのか。
もっと早くに心象魔法の存在に気が付いていれば。
いや、起きてしまったことは覆らない。
覆らないのならば、俺が始末をつけなければならないだろう。
拠点に到着し、密偵を呼び寄せる。
「少し調べてほしいことがあるんだ」
「はい、こちらアンナという人物が住んでいる住所です」
「ほげっ!?」
いやちょっと待って、俺まだ何も言ってないんだが!
確かに調べてほしかったのは際どいアンナ先輩の住所だったけどさ!
俺の密偵は優秀かよ。
今までも優秀だったよ、ありがとな!
といわけで、際どいアンナ先輩の家に押し掛けよう。
まだ家にいることを祈るしかない。
もし帰ってなかったり、既にこの国を去っていたら……そのときはまた密偵に頼らせてもらおう。
「アレクシス様」
「アレク」
「……リンシア、リリー」
拠点を出発しようとした俺を二人が呼び止めた。
「アンナさんのところに行くのでしょう? わたしもご一緒します」
「リリーを庇ってくれた。アンナ、多分いい人」
いやいやいや、あれはリリーを庇ったのじゃないぞ。
際どいアンナ先輩のすぐ近くの床に穴が空き、襲われている俺が空けたと思われるわけもなく。
当然、隠密魔法を使用しているリリーを察知できる人物もおらず、際どいアンナ先輩のせいになっただけだ。
完全に濡れ衣である。
けど、ついて来てくれるのは正直ありがたい。
恥ずかしい話、際どいアンナ先輩にどう声をかけていいのか。
怖いという気持ちもある。
際どいアンナ先輩が屋敷を去る際、あんな顔を見てしまったらね。
心象魔法をフルに使えば解決するかもしれない。
でも、それじゃだめだ。
本来の俺自身の言葉で、際どいアンナ先輩に手を差し伸べなければ意味がないのだ。




