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禁術の大魔法使い  作者: うぇに
第二章
86/200

086 どうしてこうなった、どうしてこうなった

「その、なんか……アレクシスが遠くに行っちゃうような気がして……」


 魅了はかけてない。

 かけてないぞ。

 でも、なんだこの表情は。

 まるで俺と離れるのが嫌みたいな感じじゃないか。


「どこにも、行かないよね……?」

「……アンナ先輩」


 そっと、袖を掴まれた。

 少し小柄で、か弱い女の子の手が震えている。


「って、なに弱気になってるのよわたしは! ごめん、今のは気にしないで。さ、今日も張り切って掃除するわよ!」


 パッと手を離した際どいアンナ先輩がニカッとした笑顔でそう言った。

 無理して笑っているのがわかってしまう。


 魅了が存在しないことにより俺に対する感情が変化している。

 変化しているが、それは俺がいなくなるかもしれないということに対しての不安だ。


 つまり、際どいアンナ先輩の本心というのは……。


 いや、まさか。


 俺に背を向け、際どいアンナ先輩はほうきを振り回しながら掃除をしていく。

 あまりにも雑だ。

 いつもは凄く丁寧に隅々まで掃除しているのに、今日はまったく掃除になっていない。


「アンナ先輩」

「ななな、なにかしら!」

「こっちは終わりましたよ」

「あ……う……」


 俺の担当エリアをピカピカに磨いておいた。

 が、際どいアンナ先輩の担当エリアはほとんど終わっていない状況。

 まるで仕事になっていない。


 ……これは少々マズイな。


「俺が手伝いますから、早いとこ終わらせちゃいましょう」

「うん。ありがと……」


 俺に対する依存を断ち切ってほしいものだけれど。

 どうも完全に溺れている。


 まあ、こういった問題は時間が解決してくれるのかもしれないけど。


 いっそ、強引に突き放したほうがいいのだろうか。

 いつまでもこんな関係を続けるのはよくないし、俺が急にいなくなった時が怖い。


 なら、先に別れを告げて、フォローしつつ円満にお別れするのがいいだろう。


「アンナ先輩は察しがいいですね」

「へ……」

「近いうちに、俺はこの仕事を辞めようと考えてるんです」


 理由は言わずもがな。

 でも、その理由を言うことはできない。

 無関係な際どいアンナ先輩をこれ以上巻き込むわけにはいかないからな。


 さて、勢いで話し出したけど、どうやって言い訳するか。

 きっと俺を繋ぎとめようと説得してくるはずだ。


「……いや」

「アンナ先輩?」


 際どいアンナ先輩がほうきを地面に落とし、俺の両腕を掴んだ。


「いや……お願い……辞めないで……」


 俺を見つめる瞳には涙が浮かんでいる。

 今にも泣きだしそうだ。

 だが、俺も心を鬼にしなければ。

 際どいアンナ先輩のためにもよくない。


「ごめんなさい、俺にはどうしてもやらないといけないことが――」

「うわあああぁぁぁぁんっ! いやぁぁぁ……アレクシスじゃないとだめなのおぉぉぉ――っ!」


 俺の言葉を遮り、際どいアンナ先輩が大声で泣きだす。

 騒ぎを聞きつけ、他の使用人たちが集まり始めた。

 いや、ちょ、これは!

 ち、違うんだ!


「ア、アンナ先輩! 落ち着いて!」

「おねがい……一緒にいてぇぇぇぇ……側にいるだけでいいからぁぁぁ――! うわあああぁぁぁぁんっ!」


 マジ泣きだ。

 もはや俺の声が聞こえてない。

 魅了なしにして、際どいアンナ先輩はこれほどまでに俺を想ってくれていたのか。


 そんな想いを踏みにじるのは……。

 きっかけは心象魔法によるものだったかもしれない。


 でも、この状況は放ってはおけない。


 か弱い女の子一人救えないで、何が魔王を倒すだ。


 そうだ、俺は帝国の勇爵なのだ。

 複数の女性を侍らすのは常識。

 別に際どいアンナ先輩を迎え入れたところで何の問題もないはずだ。


 リンシアとリリーを説得するのが大変だろうけど……。

 既にリリーが姿を隠しながら殺気立っているのがわかる。

 でも、俺だって男だ。

 根性を見せなければならない、今がそのときである。


 心象魔法を発動させ、魅了の効果を乗せる。


「アンナ先輩」

「ひうっ――!」


 ちょっと危ない声が響いた。

 他の使用人の眼があるのだから気を付けてくれ。

 一応、魅了の強度は無意識で使っていたときよりも、かなり低めの出力にしている。

 お話するぐらいなら、この程度でいいだろう。


 アンナ先輩の様子は……涙でぐちゃぐちゃになった顔が赤面している。

 息は荒く、真っすぐ俺に熱い眼差しを向けていた。


 ん、待って。

 なんだか効きすぎてない?


「アレクシス――」

「は、はい! なんでしょう!」


 うるうるとした瞳、ぷっくりとした唇。

 くねくねと際どい動きをしながら際どいアンナ先輩は俺に迫り――、


「今すぐ犯して」


 ぽーんと、際どい下着が宙を舞った。

 下半身を露出させた危険なアンナ先輩が俺に覆いかぶさる。


 まて、効きすぎだろ!?

 ほんとにちょとしか魅了してないんだぞ!


 周囲に集まっていた使用人たちがザワザワと声をあげる。

 リリーは床に穴を空けた。


 このままではマズイ、非常に危険だ。

 全力で危険なアンナ先輩の拘束から逃れ、その場から逃げ出した。




 その日、アンナ先輩は後輩使用人を襲った罰で、仕事をクビになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これで、アンナ先輩を雇えますね
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