082 劣等感
ニーナは一族の中で一人だけ魔法を使うことができなかった。
魔力の測定なのだけど、実は王国や帝国など、大国でなければ測定する魔道具が存在しないのだ。
まず魔道具の数が少ない。
そして、製造方法が一切不明なのだ。
おそらくは過去の勇者がいた時代に作られた魔道具であると思われるが、製造方法が禁術魔法と同じく断絶している。
故に、魔力を測定できる魔道具は国が厳重に管理しているのだ。
王国はその魔道具を利用し、魔力がある農民を見つけては貴族が金を出して引き取り、学園に入学させる、いわば俺にも行われた投資のようなシステムがあった。
平和な時代であれば、そのシステムも一概に悪いものではないのだろうけど。
公国は小国であり、魔力を測定する魔道具を所持していない。
初級魔法すら使えないニーナは、魔力を持っていないと思われたわけだ。
ニーナと話をしている最中、窓の外に目を向けると水滴が付いていた。
どうやら雨が降ってきたらしい。
「公族で魔力を持たずに生まれてきた子供はいままでいなかったから……」
「自分は不出来だと思ってたんだね」
ニーナがコクリと頷く。
この地を治めてきた公族を振り返っても、魔法をお披露目できなかったのはニーナだけだ。
一応、後継ぎとしてはお兄さんである公世子がいるから問題ないといえばそうなんだけど……。
ニーナとしては凄まじい劣等感を感じる環境だろう。
だが、決してニーナは他の公族からひどい仕打ちを受けていたわけではない。
本人も小さなころから魔法が使えるようになるよう精いっぱい努力してきた。
家族の仲は、それほど悪くなかったようだ。
「あの日も、今日みたいな大雨が降ってたの。故意に降らされた雨だったけどね」
ニーナは窓の外を見つめながらそう言った。
雨は、次第に強くなり大雨となっている。
部屋の中にまで激しい雨音が聞こえてくるほどだ。
ついにニーナは十歳を迎え、魔法のお披露目をする年齢となった……が、やはり魔法が使えるようになることはなかった。
魔法の力を見せつけ、土地を治めている威厳を保つ公国にとってそれは忌々しき事態だった。
もし魔法が使えないと知れ渡れば公族の威厳に関わってくる。
ニーナが魔法を使えるふりをして、後ろから公世子が魔法を発動。
あたかもニーナが魔法を使ったかのように見せる作戦が立てられた。
しかし、それは国民を騙すということ。
十歳のニーナには、余りにも重すぎる責任であった。
そんな責任感と、魔法が使えない劣等感に押しつぶされ、ニーナの心は凍っていく。
ついには、お披露目会に顔を出すことができなかった。
本人がいないのではお披露目会を行うこともできず。
大公、公妃、公世子の三人で水系統の魔法を使い、大雨を降らせたのだ。
大雨で危険だからお披露目会は中止。
もともと魔法が使えないことを知られないよう、ニーナは屋敷からほとんど出ずに育てられたため、国民もそこまで興味を持つことはなかった。
ニーナの魔法は、大雨と共にみんなの記憶から流れていったのだ。




