081 美少女百面相
心象魔法の強度を少し弱めて調整していく。
さすがに赤面した美少女に熱い眼差しを向け続けられるのは心臓に悪い。
「悩みごとについて心当たりがあるんだけど、聞いてくれるかな」
「ききき、聞くだけ聞いてあげるわ」
めっちゃ動揺してるんだが。
まだ出力が強すぎたかな?
もう少し弱めにっと……。
「ニーナ、君は魔法が使えないんじゃないか?」
「——っ! ど、どうしてそれを!」
うむ、普通に話せるぐらいはこのぐらいの出力か。
で、悩み事の一つは俺の想定していたものと同じであったようだ。
ニーナは莫大な魔力を持っているが故、初級から上級までの魔法を使うことができない。
死ぬかもしれない状況で必死に頑張れば上級ぐらい使えるかもしれないけど。
「それから、みんな自分のことを嫌っていると思ってる」
「そ……れは……実際にそうだし……」
周囲も別に好きでニーナを嫌っている訳ではないだろう。
無意識に放つ威圧ゆえに、ニーナに対して好意を向けることができないだけだ。
今、俺が魅了を使っているせいか、ニーナは威圧を行っておらず。
こうなれば普通の少女となんら変わらない。
結論からいうと、勇者で間違いないだろう。
膨大な魔力を持ち、禁術級の心象魔法を使えるのだ。
後は帝国に転移させて聖剣が抜ければ文句なしだ。
が、俺が連れていくのはリンシアが交渉に成功した後だ。
本人が最後まで頑張るといっているのだから。
俺はすこーしだけ禁術魔法で手助けをするだけである。
「じゃあ、今俺はニーナのことを嫌っているように見えるかな?」
閉じられていたカーテンを開け、窓から差し込む光を背後に、ニーナへ視線を向ける。
少しだけ、魅了を強めた。
「え、あっ……。わ、わからないよ、そんなの。見た目だけじゃ、何考えてるかわからないし……」
「少なくとも、見た目は嫌ってないように見える訳だ」
「あ……う……」
ちょっと意地悪しすぎたかな。
だが、これで俺がニーナに対して悪い感情を向けていないことは理解してもらえただろう。
さて、と。
少しずつ凍った心を溶かしていきますか。
「実は俺も、以前は魔法が全く使えなかったんだ。それに、周囲から凄く嫌われてた」
「え……」
ニーナが驚いた顔になる。
「アタシと……おなじ……?」
「そういうことになるかな」
禁術魔法の使い手は、みんな苦労する運命にあるのかもしれない。
「え、でも……えっと。アレクシスだっけ……」
「そ、アレクシス」
「アレクシスを嫌いな人なんているの?」
やべ、まだ魅了を強めたままだった。
いるよいるよ、「お前はこの国の未来に必要のない人間だ」なんて言ってくる人もいたんだから。
「それに、さっき魔法使いだって……」
「今はね。昔は魔法が使えなかったのはホントだよ。つまり、ニーナも魔法を使えるようになる。実は今までも使ってたんだけどね」
ニーナが困惑した表情になる。
まあ、急にこんなことを言われたって困惑するよな。
「まずは落ち着いて、順に説明していくから」
「う、うん……」




