080 際どいアンナ先輩は犠牲となったのだ
系統でいうと補助系統の魔法。
主に相手に伝わる自分の印象をコントロールする魔法、“心象魔法”だ。
王国で学んでいた魔法の一種で、心象魔法を用いると相手によい印象であったり、または威圧的な印象を与えたりすることができる。
が、心象魔法の構築難易度はそれなりに高く、かなり練習しなければ使用することはできない。
マスターすればモテモテになるのも夢じゃない。
皇帝陛下の圧倒的カリスマも、おそらくはこの魔法を使ってのことだ。
で、実は俺もこの魔法を研究していたことがある。
初級魔法すら使えないことが明らかになり、周囲の反応が冷たくなった時のことだ。
少しでも自分の印象をよく見せようと、使えもしない心象魔法の研究にのめり込むという涙ぐましい努力をしていた。
だからこの魔法については詳しいし、実際に俺が無意識で心象魔法を使っていることに、今気が付いた。
あまりにも熱心に研究していたものだから、構築理論が脳裏にこびり付いていたらしい。
以前は少量の魔力を用いての魔法の発動はできなかったが。
今は禁術魔法として、常時、周囲に魅了を放ち続けている。
そう、無意識のうちに周囲の人たちを魅了し続けていたのだ。
……だから帝国に到着してからみんな俺に優しくしてくれていたのだろうか。
リンシアとリリーが迫ってきたのもそのせい?
それはちょっとショックだな……。
いやでも、二人ともちゃんとした理由があって俺を愛してくれてるって言ってたし。
うん、魅了を通り越した愛とかもあると思うんだ。
際どいアンナ先輩、あなたは完全に心象魔法の犠牲者だ。
本題に戻ろう。
ニーナは確実に禁術級の心象魔法を使用している。
それも俺の様な魅了ではなく、相手に威圧感を与えるといったものだ。
通常の心象魔法であれば少し印象が悪いな程度の効果しか現れないが、禁術魔法を使えるニーナの場合、同じ場所にいるのが苦痛になるほどの効果になる。
つまり、お世話の担当がコロコロ変わったり、リンシアが精神的に疲弊していたのはニーナの放つ心象魔法が原因だろう。
おそらく、さっきまでの俺と同じで無意識に放っている。
さてと、原因がわかったのと同時に打開策が見つかったぞ。
今から俺は好感度最大の状態でニーナに話しかける。
うん、つまり心象魔法を全力で使用して魅了するのだ。
でもなければ、ここまで重症の引きこもりに話を聞いてもらうことは難しいだろう。
いままで無意識で使っていた術式に意識を向け、効果を強めていく。
よし、こんなもんだろう。
「ニーナ」
「——ひゃいっ!?」
俺が声をかけると、ニーナが悲鳴のような声をあげながら飛び起きた。
布団に隠れながらだが、先程とは違い俺に熱い視線を送っている。
あれ……効きすぎた?




