079 変ないたずらをするつもりはありません
「こんにちは」
「――誰!?」
驚いた声を上げながら公女殿下は掛け布団から這い出てくる。
ベッドの端っこに座り、掛け布団をギュッと握りながら警戒した表情で周囲を見渡し始めた。
特徴としては赤髪、過去の勇者の髪色と同じだ。
肌は色白で、少々病弱に見える……が。
――めちゃくちゃ美少女なんだが?
いや、リンシアやリリーも圧倒的美少女の部類に含まれる。
そんな美少女に囲まれながら過ごしている俺が見ても、公女殿下の姿はとても美しく映る。
まるで、この世のものではないような。
次元の違う。
そんな美しさだ。
そんな美少女が困った顔で涙目になりはじめた。
まだ潜伏を解除していないので、声が聞こえたけど誰もいない状況。
泣きたくもなるよな。
リンシアを困らせたのだから少し困らせてやろうと思ってが……意地悪はこれぐらいにしとこう。
「ここだよ」
そう言いながら潜伏を解いて姿を見せる。
「ひっ……どう、やって……」
「部屋に入ってきたかって? 魔法だよ」
俺の姿を見て怯える公女殿下にそう答えると、一瞬だけ目を丸くして驚いた表情をしていた。
「ま……ほう……?」
「そ、魔法使いのアレクシス。君の名前を教えてもらっても?」
まあ、名前は事前に聞いてるから知ってるんだけど。
返事をしてくれるだろうか。
「ニーナ……。ニーナ・シュレンドール……です……」
「そっか、よろしく。ニーナ」
とりあえず名前を聞き出すぐらいのコミュニケーションはとれると。
よろしくの返事はなかったけど。
公女殿下……ニーナはビクビクとしつつも、俺にチラリ、チラリと視線を向ける。
目に入れても痛くないほどの美少女であるが、視線が合った瞬間。
ちょっと俺の方がドキッとする。
なんだ、この守りたくなるような存在は。
「ちょっと俺とお話しないか?」
「なんの……話……?」
「最近、何かに悩んでたりしない?」
その言葉を聞いた瞬間、ニーナの顔が曇る。
——なんだ、この感じ。
不意に息苦しさを感じた。
この場にいたくないと思うような、そんな息苦しさだ。
「別に、悩みなんてないから……」
そう言いながら、ニーナは俺に背を向けて布団をかぶる。
ニーナの視線が外れた瞬間、息苦しさが消えてなくなった。
ふむ、かなり重い悩み事がありそうだ。
それも通常の少女が持っているような悩みではなく、もっと根の深い。
魔法に関する悩み事ではなかろうか。
そして今、“ニーナが使った魔法”に俺は心当たりがある。
リンシアがとても落ち込んでいたり、公女殿下のお世話担当がコロコロ入れ替わっている原因である可能性も高い。
もっとも、禁術級の威力であるからこそこんな事態になっているのだろうとは思うけど。
ニーナは、無意識に他者を威圧している。




