076 この包囲網を突破するのはそう簡単ではない
ひとまず、際どいアンナ先輩も休憩時間だそうなので三人でお茶でも飲みに行こうという話になった。
「リリーも、一緒に行く」
「わ、何!? え、獣人? いつのまに、さっきまで居なかったわよね?」
潜伏してる護衛が出てきてどうする。
さては、一人のけ者にされていると思って我慢できずに潜伏魔法を解除したな?
後でたっぷりと相手をしてあげるのに。
「あー、えっと。俺の知り合いというか」
「リリー、アレクの女」
おい。
「……うぐぐ、やっぱり女たらしじゃない。あーあ、色々考えてたわたしがバカみたい。もう、ホントなんなのよ」
いや、なんか申し訳ないです。
色々考えてくれるのは嬉しいけど、俺と共に歩むのは茨の道だと思う。
もし危険な状況に陥ったとして、助けられる保証はないのだから。
際どいアンナ先輩が際どい人生を送る必要はない。
「仕方ありません、アレクシス様がそれだけ魅力的ということですから」
「リンシア……あなたもなのね……。この際だからわたしも」
「駄目です」
「リリー、阻止する」
「二人してひどくないかしら!?」
際どいアンナ先輩が涙目でそう叫んだ。
どうか、ささやかな幸せを手に入れてくれることを願う。
◇
街に繰り出し、際どいアンナ先輩おすすめの喫茶に入店した。
やはり五年もここで働いているということもあり、いいお店を知っているようだ。
というか、対面のテーブルで俺の両隣にリリーとリンシア。
向かい側に際どいアンナ先輩が座っている。
あまりにも露骨だ。
際どいアンナ先輩が呆れた目でため息をついてるぞ。
「で、リンシア。けっこう困ってるみたいじゃない」
「アンナ先輩もご存じでしたか」
「知ってるも何もメイドたちの噂の中心よ?」
リンシア、噂になってたのか。
うん、俺は男なのでメイドたちの噂話に加えてもらえず知り得ません。
で、どんな噂かというと。
入って間もない新人が公族の信頼を得てお世話を任されることもビッグニュースなのだが。
それよりも公女殿下のお世話を自ら立候補したことがもっとビッグニュースなのらしい。
普通、使用人たちの常識からすれば大公様、公妃様、そして公世子様のお世話に抜擢されるのが名誉なことである。
が、公女殿下のお世話の場合は長くても数か月続けばいいそうで、一度お世話から外されると他の公族のお世話に復帰することもなかなか難しいのだとか。
だから、公族のお世話の担当とはいえ、公女殿下のお世話担当はみんな避けたがる。
最初は公妃様のお世話に大抜擢、なんて話も出てたそうだが。
リンシアの強い希望により公女殿下の担当になったわけである。
任務だから仕方ないね。
「ま、担当になってからもう一週間でしょ? 三日で担当を辞めた人もいるぐらいだし、頑張ってる方よ」
「ありがとうございます、アンナ先輩。ちなみに、公女殿下が自分の心を閉ざされる要因に心当たりはありませんか?」
さすがリンシア。
壁にぶつかっても方法を模索して突き進む。
そんなところに俺は惚れてるよ。
「そうねぇ、これも噂でしかないから聞き流す程度にしときなさいよ?」
おや、際どいアンナ先輩は何か知っているようだ。




