065 プライベートビーチで、今からいいとこだったのに
青い海、白い雲。
そして照り付ける太陽を浴びて。
とある公国のビーチにて、俺はゆっくりとした時間を過ごしている。
デッキチェアに寝そべり、片手にはトロピカルなドリンク。
波の音を聞きながらリラックスだ。
皇帝陛下は密偵の指示に従えと言っていた。
そして密偵は楽しんでくださいと言っていた。
つまり、サボっているように見えてちゃんと任務を遂行しているところなのだ。
「アレクシス様ー!」
俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
海の方へ視線を向けると水着姿の美女が二人。
リンシアとリリーだ。
バシャバシャと水で遊びながら俺に手を振っている。
実はここ、プライベートビーチ。
入り江のような場所で、俺達以外には誰もいないのだ。
貸し切りである。
帝国の財力を用いれば、公国のプライベートビーチを借りるぐらいなんてことはないのだ。
さて、俺もひと泳ぎするか。
デッキチェアから起き上がり、熱せられた少し熱い砂浜を歩く。
海の水に足をつけると冷たくて心地がいい。
そのまま水深の深いところまで泳いで……。
泳い……あれ……。
「ゴボ……ゴボボ……」
俺、沈んでね?
「アレク!」
「アレクシス様!?」
◇
「ゲホッ……ゲホ……」
「アレク、大丈夫?」
「おう……ありがとう……助かった」
いやまさか、溺れるなんて思ってもみなかった。
今まで海の無い王国で暮らしてきたのだ。
泳ぐなんて習慣は今までなかったので油断した。
俺、泳げないんだな。
「もう、心配させないでください。いくらわたしでも蘇生はできないんですよ」
「すまん……」
プンプンとリンシアが怒る。
いくら禁術魔法でも死んだ人間は生き返らないからな。
しかしホント、二人は泳ぐのが上手いな。
リリーは犬かきみたいな泳ぎ方だったけど。
一緒に泳ごうと思っただけなんだ。
無念。
「まだ無理はいけませんから。はい、ここで休んでください」
そう言いながらリンシアは正座して膝をポンポンとする。
ほう、膝枕ですか。
「治癒魔法を使ってくれればすぐに復活すると思うんだけど」
「嫌ならいいんですよ?」
「ぜひ、膝をお借りいたします」
「うむ、素直でよろしい!」
頭を預けると、柔らかくも弾力のある太ももに包まれた。
そして目の前には巨大な山が聳え立つ。
素晴らしい眺めだ。
「リリーも、休む」
そう言いながらリリーが俺の上に覆いかぶさり、寛ぎ始める。
休み方、間違えてない?
まあ、いいんだけどさ。
とりあえず、つんつん。
揺れ動くものをつんつんつん。
いい反応ですね。
尻尾をわしゃわしゃ。
ついでにいろいろわしゃわしゃ。
こちらもいい反応。
さてさて、泳げなかったぶん、身体を動かさないといけないよな。
そうだよな、リゾートの美味しいご飯を食べる為にお腹を空かしておかなければ。
その前に、もっと美味しい物をいただくと……。
なんだ……?
なにやら変な音が聞こえるぞ?
「アレクシス様……海が……」
リンシアの言葉を聞き、海に視線を向けると——、
「潮が……引いてる……?」
急激に海の水が沖の方へと流れていく。
余りにも不自然な動き方をして。
これは——、魔法だ。




