064 別に会得しても悪用するつもりはありませんよ?
てなわけで翌日。
俺達は魔導車に乗り込み公国へと向かう。
これから向かう公国というのはかなり小さい国であるらしい。
もともと他の国の領地だった場所が独立してできた国だ。
小さいながらも、実は観光地として栄えている。
海に面した公国の中には湾が存在し、リゾートも存在するのだ。
南に位置する国なだけあって、かなり温暖。
周辺国からはそれなりに人気の観光地である。
そして今、俺は馬車の中で魔法の練習をしている。
隠密魔法というやつだ。
昨日からリリーが密偵から受けている授業に、ついでに参加させてもらっているが、これがまた難しい。
人の気配を察知されないようにするという術式は、今まで俺が研究してきた分野とは少々方向性が違うようで、一から構築方法を学ばなければならない。
転移魔法が構築できたんだから、共通で応用できる箇所ぐらいあるだろうと思っていたが……全然違う。
帝国が長い時間研究し、実用レベルに発展させたのが隠密魔法というものらしい。
で、等のリリーはというと。
魔導車に乗っていると思われるのだが、存在を察知できない。
そう、禁術級の隠密魔法を会得したのだ。
この短期間で。
天才という他なかろう。
補助系統の適性が異常に高いのと、野生の勘によって会得したものと思われる。
おそらく、構築理論なんてこれっぽちも理解していない。
だが、それができてしまうからこそ勇者パーティーの闘戦士足り得るのだろう。
しかしながら禁術級の隠密魔法は本当に凄い。
上級の隠密魔法では発見された状態では姿を隠すことはできない。
隠れた状態で発動することにより、気付かれずに敵に接近することができる。
が、禁術魔法の場合、たとえ相手に発見されていようとも、目の前から消える。
まるで転移でもしたかと勘違いするが、確かにそこに居る。
でも見えないし、存在感もないのだ。
リリーの攻撃力で、かつ姿が見えないとなると……敵からすれば恐ろしい脅威であるように思える。
俺も会得できれば同じことができるようになるだろう。
地道に頑張るしかない。
◇
魔法の練習をしている間に公国へと到着した。
移動にはそこそこ時間がかかった。
獣人王国に向かうのと同じぐらいの距離だろうか。
魔導車の中はかなり快適なので、長距離移動でも苦にはならないけどね。
「勇爵様がた、長旅お疲れ様です」
そう言いながら現地で待っていた密偵が出迎えてくれた。
……なんというか、凄いエンジョイしてない?
完全にリゾートで遊んでいる人の格好だ。
「任務の内容ですが、公族の屋敷に使用人として潜入していただきます」
「使用人として、公女殿下に接触を図るという作戦ですね」
「そのとおりでございます」
なるほど、敵の懐に入って内側から攻める作戦と。
敵ではないけど。
「使用人として雇ってもらうにあたり、ただいま準備を行っております。もう数日後にはご案内できますので、それまではリゾートをご満喫ください」
遊んでていいんですか。
そうですか。
海に面したリゾートかぁ。
これは期待である。




