055 彼女たちの眼は、まるで肉食獣のそれだ
シルフィードを倒してしばらくすると帝国軍の面々が森の中に入ってきた。
観測していたシルフィードの魔力が消滅したため、俺たちを迎えに来てくれたらしい。
実際、もう動くことができない程に疲労していたので助かった。
帝国軍に運ばれ、防衛拠点へと戻る。
ドラゴンはというと、植民地となった元王国の魔物狩りに戻っていく。
若干名残惜しそうな表情をしていたが、俺に従うというのであれば仕事をしてもらわねば。
即時会話のできる魔道具で皇帝陛下に魔精霊シルフィード討伐完了の報告をしようと思っていたら。
まずは療養してくださいと部屋に押し込まれた。
上級魔法の使える医療班に取り囲まれ、治癒魔法を施されていく。
戦闘中、リンシアに治癒してもらったが、命を繋ぎとめるギリギリのラインまでだった。
治療の続きである。
報告はダニエル大佐が代わりに行ってくれた。
俺達は帝都に戻ってからの報告でいいと言われた。
そんなこんなで一夜明けた。
魔力を空っぽになるまで絞り切ったせいか、倦怠感が続いている。
徐々に魔力も回復してきているが、満タンになるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
「で、ここは俺に与えられた部屋なんだけど。どうして二人ともここにいる」
「一人だとアレクシス様が心細いかと思いまして」
「この部屋、アレクの匂いがする」
さすがに夜の襲撃はなかったが、夜が明け、部屋でゆっくりと療養しているとリンシアとリリーが押し掛けてきた。
おい、俺の部屋を嗅ぎまわるなリリー。
俺は未だ動くのすらしんどいのに、二人とも元気だな。
ひとまず、魔力を回復しなければ魔導車を動かすことすらできない。
普通の馬車で移動していたら何日もかかってしまうからな。
もう一日ほどゆっくり休んだら魔導車を余裕で動かせるぐらいには回復するだろう。
という訳で部屋でゴロゴロしているのだが。
……………………。
「あの、なんだ?」
「いえ、何も?」
「ぷいぷい」
リンシアとリリーがずーっと俺に視線を向けている。
なにか用かと聞いても、御覧のありさまである。
というかリリー、ぷいぷいってなんだよ。
いや、わかってる。
わかってるよ?
二人とも、俺の言葉を待ってるんだ。
散々アプローチしてきたんだから、そろそろ覚悟を決めなさいというオーラを放っている。
いざこのタイミングになると、心臓がバクバクしている。
女性にアプローチなんてしたことないんだから仕方ないと言い訳したいところだが……。
覚悟を決めねばならぬだろう。
そうだ、俺が望んでいることなんだ。
欲張りかもしれないが、リンシアとリリーが欲しい。
「リンシア、リリー。大事な話がある」
「うん、わかった。リリー、アレクのものだからいいよ」
「いやちょっと待て、まだ何も言ってないだろうが! 服を脱ぐな服を!」
時すでに遅し。
リリーはもうすっぽんぽんだ。
つるりとした肌が露になる。
「まず話を聞け! それと、リリーは俺の物じゃない」
その言葉にリリーがムッとした表情をする。
意義申し立てたいのだろう。
だが全裸だ。
まずは服をきなさい。
リリーは俺の物だというが、その表現はどうかと思う。
誰かさんのように人を物のとして扱うつもりはない。
人を物扱いしていれば、いずれ自分に返ってくることを目の当たりにしたからな。
グランドル伯爵、元気かな。
二度と会う事は無いだろう。
俺はグランドル伯爵の物ではなく。
意志を持った一個人だ。
リリーは獣人であって、勇者パーティーであって、そして——、
「俺の女だ」
「——ふぎゅ!?」
リリーから変な声が出た。




