054 本当の勝利はこれから掴みに行く
「まて、ブレスは――」
『リ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛――――――――!』
ドラゴンに向けて放った言葉の途中、シルフィードの咆哮がそれを遮った。
なんだ、どうした。
まさか、まだ力が残っているというのか?
刹那、暴風がドラゴンを包んだ。
『ふん、お前の魔法は効かな……んん!? ちょ、まっ、かなり痛いぞ!?』
最後の力を振り絞って攻撃してきたのか。
先ほどまでほぼ無傷だったドラゴンが苦痛を感じている。
ドラゴンに耐えきれるか?
何か対策を――、
そう考えを巡らせ始めた直後、シルフィードの身体が黒く染まり始める。
黒く染まった箇所からボロボロと形が崩れ、粒子となって消滅する。
終わったのか……?
本当に……。
『いだだだだだだ! む、終わりか? 死ぬかと思った……ではなく、ガハハその攻撃も我には効かないようだな!』
ドラゴンを覆っていた暴風も消滅した。
少々ダメージを受けたようだが、問題なさそうである。
『って、おい、魔精霊の身体が消滅しかかっているではないか! トドメは我がブレスで!』
「ドラゴン」
急いでブレスを放とうとするドラゴンを止める。
やめろ、余計な事をするな。
シルフィードの身体はもうほとんど残っていない。
黒い粒子はどんどん離散し、そして。
「もう大丈夫だ」
邪悪な気配は完全に消滅した。
誰か一人でも欠けていたらシルフィードに勝てなかっただろう。
リンシアも、リリーも、そしてドラゴンも。
絶望の淵でリンシアに手を差し伸べられたのも、リリーと森で出会ったのも、ドラゴンが助けにきてくれたのも。
すべて神の導きというやつだろうか。
勝利への道筋を切り開いてくれたのかもしれない。
言葉は聞こえないけど、でも、確かに俺たちを見守ってくれている気がする。
「ドラゴン、来てくれてありがとう」
『む、う……うむ。我に感謝するがよい! これからもアレクシス様に従わせてもらうぞ!』
上から目線なのか下僕なのか、よくわからない喋り方をする奴だ。
身体の力が抜け、バタンと仰向けに倒れた。
圧倒的な力を手に入れたと思ってたけど、それだけじゃ駄目だ。
俺はもっと強くならないといけない。
誰一人、仲間を欠けさせてはいけない。
じゃないと、あの魔王には勝つことは出来ないだろう。
「……リリー、もっと強くなる」
隣で倒れているリリーがそう言った。
どうやら、意識を取り戻したらしい。
「わたしも、もっと強くならないと。過去の勇者パーティーは本当に凄かったのですね」
リンシアもリリーも。
強くなりたいと思っているのは俺だけじゃない。
二人とも、同じ気持ちなんだ。
「ああ、強くなろう」
俺が立っているのは禁術魔法の入口に過ぎない。
本当の意味での禁術……人の域を超えた力をコントロールできるようにならなければ。
「強くなって、必ず魔王を倒そう。リンシア、リリー」
「はい!」
「ん!」




