053 本人が強いと思ってるなら、それが幸せかもしれない
魔物であるドラゴンが魔精霊の魔法を耐えきった?
それも、ほとんど無傷の状態で。
これが超級魔物、ダークドラゴンの力だとでもいうのか?
シルフィードは驚愕と怒りの感情をむき出しにしている。
『ガ……ガハハハハッ! ついに、ついに我の時代がやってきたのだ! 見たか、アレクシス様! 魔精霊シルフィードの攻撃を退けてみせたぞ! 我にかかれば魔精霊など雑魚に違いないのだッ! デカい面して魔王様……いや、魔王に媚を売りおって! 今、葬ってくれるわ!』
ちょっとイラっとした。
が、これで絶望的だった状況に勝機が見えた。
魔王の魔力を吸収して成長し、俺の魔法で肉体が強化された状態のドラゴンであればシルフィードに勝てるのではなかろうか。
『ゆくぞ――――!』
「リ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛――――!」
ドラゴンは大きな翼を広げて飛翔し、シルフィードはその場から跳躍した。
二つの巨体が、先ほどの聖精霊サラマンダーを召喚したときのようにぶつかり合った。
『ガハハ! それでも魔精霊か! 弱い、弱すぎるぞ――――! 違うな、我が強すぎるのだ! ガハハハハ――――!』
「リ゛イ゛ィ゛……ア゛ァ゛……」
ドラゴンの猛攻がシルフィードに襲い掛かる。
完全に押している。
シルフィードも反撃を行うが、どの攻撃もドラゴンには効いていない。
ドラゴンは圧倒的な力を手に入れたんだ――――と言いたいところだが、どう見てもシルフィードが死に際に弱体化しているだけである。
多少は強くなっているのだろうが、ドラゴンが調子に乗っているだけだ。
聖精霊サラマンダーと戦っている時に比べ、シルフィードの動きに全くキレがない。
地形を破壊することもなく……大規模な戦いではあるのだが、先ほどと比べればかなり低レベルな戦いが繰り広げられていた。
それでも、魔力が枯渇した俺を殺すぐらいの余力はシルフィードに残されているだろうが。
ドラゴンが来ていなければ、本当に俺は死んでしまっていたかもしれない。
ちょっとだけ褒めてやる。
だがシルフィードもただではやられない。
必死にドラゴンに食らいつき、殴る蹴るの暴行を加える。
精霊なのに。
もう魔法すら使えないのかもしれない。
そんな抵抗も虚しく、やがてシルフィードは地面に倒れ込んだ。
ドスンと音が響き、土煙が舞う。
『ガハハ、もう手も足もでないか! 過去に我を雑に扱っていた恨み、忘れはせぬぞ! 我がトドメを刺してやる!』
なにやら私怨が含まれている気がするが。
ドラゴンは大きく息を吸い込み、ブレスでトドメを刺すらしい。
先ほどのサラマンダーの出来事を思い出し、何だか嫌な予感がした。
というか、ドラゴンの炎は敵だけを焼き尽くすものではない。
こんな木が沢山ある場所でブレスなんか放ったら……大規模な火事になりかねないぞ!?




