005 この人、押しが強い
禁術魔法……?
いかにもヤバそうな魔法だが、リンシアと名乗っている帝国の女性のテンションの方がもっとヤバい。
というか、彼女の言っていることには何も確証がないじゃないか。
魔王だとか魔精霊だとか大魔法使いだとか、俺の使ったのが禁術魔法だとか。
全てまやかしで、俺を騙そうとしているのかもしれない。
「そんな膨大な魔力を持ち、凄まじい魔法を操るアレクシス様に、是非! 是非とも魔王討伐にご協力いただきたいのです!」
表情が読めないと思ったが、今は歓喜に満ち溢れているようだ。
もはや、俺が協力すると信じて止まないといった雰囲気である。
「断る」
「なっ、そんな!? どうして! …………失礼、つい勢いが余り。アレクシス様の意志を尊重いたします。一応、断る理由をお聞かせいただいても?」
「理由、と言われても……。まず帝国という国を信用できない。さっきの巨人をあんたが出現させた可能性だって捨てきれないだろ」
「ふむ、なるほど」
リンシアは少し考えるような素振りをした後、またペラペラと話し始めた。
まず、リンシアが炎の巨人を出現させた犯人ではないということは信じてもらうしかないとのこと。
なんじゃそりゃ、と言いたくなるが逆に炎の巨人が絶対に魔王の手下の魔精霊イフリートではないと否定することもできない。
どちらも証明できないからこそ、言い合ってもらちが明かないだろう。
「それに、俺は王立魔法学園に通ってる。学費を出してもらってるんだ。……グランドル伯爵を裏切るような真似は……できない」
「はぁ、アレクシス様も金に目の眩んだ王国の子羊なのですね」
「え?」
リンシアが、かわいそうな物を見るような視線を俺に向けている。
何か変なことを言っただろうか。
「王国の魔法なんて、初級魔法をこねくり回しただけの魔王討伐に何の役にも立たない研究ばかりではないですか。アレクシス様も、それだけ膨大な魔法を持っているのならば、初級魔法は使いにくい……もしくは全く使えないんじゃないでしょうか」
その言葉に、ドキリとした。
今まで、初級魔法を使えたことは……というより魔法を使えたことは一度もなかった。
今の今までは、だ。
俺の使ったのは学園で学んでいた魔法ではなく……つまり、禁術魔法?
頭がこんがらがってきた。
彼女は、何か知っているのか?
いや、知っているからこそ俺を帝国に誘っているのだろう。
魔王討伐を行うという理由をつけて。
「こんな言い伝えもあります。魔王が復活するとき、同じく勇者とその仲間たちも現れるだろうと。先ほどもお伝えしましたが、アレクシス様の魔法はかつての大魔法使いドラトニス様を彷彿とさせるものです」
「俺の魔法が……大魔法使いドラトニス様を彷彿させる……」
言葉で伝えられても実感はわかない。
でも、先程俺が使った……。
炎の巨人を消し去ってしまったあの魔法は……。
異次元の威力だった。
自分で発動させたとは思えないほどの。
でも、確かにあれは……俺が発動させた魔法だった。
「ちなみに今、帝国にお越しいただければ、魔王討伐作戦の重役として……えーっと。これぐらいの年俸が出ますよ」
リンシアがそう言いながらローブの隙間から出したメモ帳に何かを書き記し、俺に見せる。
え、今年俸って言ったか?
年俸ってことは、このお金を一年間の給与としてもらうことができるってことだよな?
……桁間違えてない?