049 第一柱・聖精霊サラマンダー
バクバクと高鳴る心臓の音が聞こえた。
尋常ではないほどに身体に負担がかかっているのがわかる。
内側から肉体が破壊されていっているのだ。
膨大な魔力を持っていてもなお、触れてはいけない力に触れるとこうなる。
だが、そんな肉体破壊と並行してリンシアの治癒魔法により俺の身体は即座に修復されていく。
死ななければ、俺の身体は完全に壊れることはない。
限界など、存在しないのだ。
俺の周囲に炎が立ち上った。
だが、熱さは感じない。
魔力によって引き起こされた炎は、俺の意志を忠実に再現する。
守りたいものには絶対に危害を加えず、標的を撃ち滅ぼす意思を持って。
炎は揺らめき、超絶巨大な魔方陣を描き始めた。
輝く炎で空中に引かれる線は、それだけで敵を燃やし尽くす火力が存在する。
シルフィードが異変に気が付き、生み出した精霊を俺に差し向けるが。
全て到達する前に消し炭となって消滅してしまう。
邪魔などさせるものか。
シルフィードを。
お前を焼き尽くすための魔法なのだから。
激しい炎が揺らめく巨大な魔方陣が完成した。
その魔方陣から灼熱の大爪が生み出されていく。
先ほどの倍以上の大きさがある火竜……いや、違う。
これは“聖精霊サラマンダー”だ。
魔法の発動と共に頭に流れ込んできた情報で理解できた。
魔王が邪神を通して召喚するのが“魔精霊”。
そして勇者パーティーが神を通して召喚するのが“聖精霊”だ。
互いに対になる存在。
そして莫大な力をもつ存在だ。
これは……神の意志だとでもいうのだろうか。
俺は勇者ではないので神の言葉を聞くことはできない。
だが、神の強い意志をしっかりと感じる。
――世界を救ってくれと。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOO――――――――――――!!」
この世に聖精霊サラマンダーが爆誕した。
紅く光り輝く硬質な鱗を身に纏い、鋭い爪と牙。
全長は十メートルを越え、視界が歪むほどの熱量を放っている。
だがこれは完全な姿ではない。
人が触れてはいけない領域の力を使ってもなお、神から与えられる全ての力を使用できるわけではない。
実際に召喚してみてわかった。
神の従える本物の聖精霊はこんなものではない。
俺が召喚できたのは、そんな聖精霊の力のほんの一片だけだ。
けれど、それは人の領域を完全に越えた力。
本当の意味での【禁術魔法】。
神の力だ。
魔精霊シルフィードに聖精霊サラマンダーが襲い掛かる。
激しい炎がシルフィードから放たれる暴風を飲み込み、さらに火力を上げていく。
目の前に広がるのは想像を絶する光景。
十メートル以上の巨人と炎を纏う化け物が殺し合いを行っている。
それが、現実に起こっているのだ。
過去の勇者と魔王の戦いも、これほどまでに熾烈な戦いを繰り広げていたのだろうか。
いや、まだ完全に復活していない魔王でさえあれほどの威圧感があったのだ。
この戦いとは比べ物にならないほど激しい戦いであったに違いない。
そうでなければ人々は魔王を恐れないし、勇者も伝説として物語になったりはしなかっただろう。
だからこそ、勇者は伝説として語り継がれているのだ。




