048 窮地に陥ったときほど、何故か力がわいてくる
ただでさえ強かったのに、さらに成長を遂げたシルフィードと戦わなければならない。
勇者がなぜ、強大な力を誇る帝国という国を後世に残したのか理解した。
魔王の本当の恐ろしさを知っていたからだ。
物語の中で、勇者に討伐される簡単な存在じゃない。
世界に闇に染め上げる、本物の厄災だ。
まだ俺は慢心していた。
膨大な魔力を持ち、禁術魔法を使うことのできる俺が負けるはずがないと。
なんとかなると思っていた。
違う。
禁術魔法だけでは魔王に勝てない。
だから勇者は四人のパーティーで魔王に挑んだのだ。
一人では勝てない相手に、力を合わせ、四人の仲間で。
魔王を倒すにな俺とリンシアとリリーだけでは駄目だ。
勇者を。
本物の勇者を探さなければならない。
だが、今ここに勇者は居ない。
勇者抜きでこの絶望的状況を乗り越えなければならないのだ。
シルフィードから複数の下級精霊が生み出された。
いや、もはやアレは下級とはいえない。
成長前のシルフィードと同じぐらいの大きさだ。
ふざけやがって、どれだけ俺達を追い込むつもりだ。
「ぐるるるるあぁぁぁぁぁ――――――っ!」
リリーが雄たけびを上げた。
毛は逆立ち、身体には血管が浮き出している。
直後、視界からリリーが消えた。
いや、視界にとらえることができないほどの速度で移動したのだ。
次の瞬間にはリリーが、シルフィードの生み出した精霊を切り裂いていた。
なんて出力なんだ。
圧倒的にシルフィードは強化されているはずなのに、リリーはその動きに適応している。
「まけない! まけないまけないまけないまけないまけないまけない――――――っ!」
次々に襲いかかる精霊を切り裂き、誇り高き獣王の如く。
自分の意志を貫くために戦っている。
だが、そんな出力がいつまでも続くとは思えない。
リンシアのサポートがあるとはいえ、俺と戦った時のように必ず限界がくるはずだ。
限界がくれば、それはつまりリリーの死を意味する。
肉体強化魔法が解除されれば、リリーはシルフィードによって即死させられてしまうだろう。
そうなる前に決着をつけなければならない。
そうしなければ、俺も死んでしまうのだ。
何が平和になったら想いを伝えるだ。
死んでしまったら意味がないじゃないか!
せっかく俺に好意を向けているのにもかかわらず。
明日、いや、次の瞬間にも死んでしまう可能性だってあるのに。
俺は。
二人とも理解していたんだ。
脅威を前に明日の命があるか分からない状況で。
だから、俺に猛烈なアプローチをしていた。
ここで死ねば彼女たちの想いを、俺が踏みにじったことになってしまう。
それだけは絶対にしてはいけない。
おれは生き残る。
リンシアもリリーも殺させない。
シルフィードを倒し、生き残って。
二人を俺の女にしてやる――――――!
俺の魂が燃え上がった。
膨大な魔力の他に、奥底に眠る底知れぬ何かが浮かび上がってくる。
通常の人間が使用すれば一瞬で魔力が枯渇してしまう禁術魔法。
その真髄に触れている気がした。
禁術と呼ばれる所以。
本来、触れてはいけない力なのだ。
その力の源に触れることにより、絶大な威力を持つ魔法を放つことがでる。
通常の魔法理論のその先の深淵。
シルフィードを滅ぼすための魔法を発動させる。




