表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁術の大魔法使い  作者: うぇに
第一章
46/200

046 狙った敵だけを絶対に焼き尽くす、俺だけの最強禁術魔法

 確実に無理をしているというのが見て取れた。


 汗を噴き出しているだけではない。

 つーっと、赤い血が鼻から流れ出している。

 この状態が続けばリンシアが危険な状況になるのは明らかだ。


 早く止めさせなければ――、


「お願い――、し……ます……シルフィードに……とどめを――っ!」


 リンシアの眼は本気だった。


 俺たち勇者パーティーはそんな危険を犯しても魔王を討伐しなければならないのだ。


 もし俺たちが負ければ、それは世界が終わることを意味する。


 大げさに言っているだけだと思っていたが、実際にシルフィードと戦ってみて思った。

 あまりにも危険だと。

 一夜にして国が滅びてしまうのだ。

 イフリートを一撃で倒せたから腑抜けていた。


 俺は命を懸けて、今目の前にいる敵を倒さなければならない。

 それはリンシアもリリーも一緒。


 だからこそ、俺たち勇者パーティーは帝国の超待遇を受けているのだ。


「リンシア! 結界の維持を頼む!」

「お……まかせ――を……!」


 無理をするななんて言えるはずがない。

 必死になって戦っているリンシアの意志を踏みにじることは、決してしてはいけない。


 ならば、俺は俺のできることをする。


 いや、俺にしかできないことをするんだ。


 前を向き、シルフィードを視界の中心に入れる。

 下級精霊が俺に攻撃を加えようと暴れているが、リンシア渾身の結界魔法により俺に届くことは絶対にない。


 安心して術式を作り上げることができる。


 掲げている大魔法使いの杖の周囲からパチパチと火花が散り始めた。

 魔法の発動は最終段階に入っている。


 ああ、そうだ。

 この魔法は俺の集大成でもある。


 魔力が膨大にあっても初級魔法すら使えなかった俺は魔法理論を徹底的に研究していた。

 たとえどれだけ馬鹿にされようとも、それだけは手を止めなかった。


 学園の教本に載っている基本から応用の魔法術式のみならず、自らも術式の研究を行っていたのだ。

 まあ、魔法が使えなかったのでどれも机上の空論だったのだけど。


 俺の研究が進んだ頃には、周囲の扱いは酷いものになっていた。

 魔力だけはあるのに魔法が一つも使えない無能として。


 そんな俺の考えた理論を試してくれる人物など存在しなかった。


 グランドル伯爵に提出しても、魔法が使えない者の論理など役に立つものかと読まずに捨てられていた。


 だから、今から発動する魔法はこの世にまだ存在しない。

 今から産声をあげるのだ。

 過去の大魔法使いドラトニスだって使ったことの無い魔法。


 今まで俺が学んできた知識と論理を組み合わせ、敵を消滅させる為だけの魔法。


 俺だけの【禁術魔法】だ。


 刹那、結界の向こう側に強大で複雑な魔方陣が展開した。

 赤い輝きを放ちながら浮かび上がるそれは、頭の中に思い描いた通りの魔方陣だ。

 美しい。


 魔方陣の近くにいた下級精霊は、まだ魔法の発動の途中であるにも関わらず、圧倒的な熱量で燃え尽きてしまった。


 だが、その熱は敵以外には伝わらない。

 たとえ森の中で使用したとしても木々に延焼を起こさない。


 それが俺の考えた理論。

 指定した対称だけを燃やし尽くす禁術魔法なのだ。


「――行け、火竜ドラゴン


 そう言いなはった直後。

 魔方陣から炎の身体を持つドラゴンが出現する。


 煌々たる光を放ち、敵を焼き尽くす意思を持って。

 勇者の物語に出てきた人々に恐れられるドラゴンの形をした魔法が、魔精霊シルフィードに向けて勢いよく放たれた。


『GYAOOOOOOOOOOOOO――――――!!』


 もちろんモデルは王都に現れたドラゴンだ。

 だが、その強さは比較にならない程の差がある。

 巨大な翼を大きく広げ、火竜ドラゴンは下級精霊ともどもシルフィードに食らいつく。

 近くにリリーもいるが、問題ない。

 俺の炎はリリーを一切傷つけることはないのだから。


 状況を察したリリーが俺とリンシアのいる場所まで退避してきた。


 下級精霊は既に全滅した。

 残るは火竜ドラゴンに喰らわれている魔精霊シルフィードのみだ。


 火竜ドラゴンに抵抗するようにシルフィードは藻掻いているが、炎の爪と牙が深く食い込み、長い尻尾が全身を縛り上げ、決して逃げることは叶わない。


 シルフィードが炎に包まれていく。


 もう勝負はついたようなものだ。

 俺の炎から逃げることなどできない。


 やがて火竜ドラゴンはシルフィードを覆いつくし――、激しい爆発を引き起こした。

 その爆発も、俺の魔法の一部であるため、森を破壊するようなことは起きない。


 凄まじい衝撃と熱は、肉片を一つ残らず焼き尽くし、後には何も残ら……な……。


「あれ、なに……?」


 何も存在しないはずの場所にあったソレを見て、リリーが震えた声でそう言った。


 空中に、黒いオーラに包まれた人型が見えた。

 その背後には、ボロボロになったシルフィードも存在する。


 なぜ、どうして。

 確実にシルフィードを焼く尽くすことのできる威力であったはずだ。

 あれでも威力が足りなかったとでもいうのか?


 いや、そんなことはどうでもいい。

 あの黒いオーラに包まれた人型だ。


 ドッと、身体の奥深いところから脂汗が滲み出る感覚がした。


 紛れもなくこれは、恐怖だ。

 俺は今、心の底から恐怖を感じている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ