042 なにとは言わないが、争奪戦
「リ、リンシア! ちが、これはリリーが勝手に!」
「何だか胸騒ぎがしたので様子を見に来たと思えば……アレクシス様。わたしがいない間にリリーさんの初めてを奪おうだなんて!」
「どちらかというと俺の初めてが奪われそうになってるんだが!?」
どうするんだよこの状況!
「さんぴー?」
「やかましいわ!」
純粋無垢そうな顔をして、どこでそんな言葉を覚えたんだよ。
直後、肉体強化魔法が発動した。
俺を押さえ込んでいるリリーを払いのけ、ベッドから脱出する。
どうにかしてこの状況を打破しなければ。
「くっ……アレクシス様は勇者パーティーの大魔法使いであり、勇爵でもあります。身分故に複数の女性を侍らすことは致し方ないと思っていましたが……それでも……それでも……!」
なんだ、リンシア。
怒ってるのか?
いや、怒っているのだろう。
不可抗力とはいえ、リンシアを出し抜いたような状況になっているのだ。
「わたしを一番にしてくださいっ! アレクシス様の初めてでわたしの初めてを奪ってください!」
怒ってるのかと思いきや目を瞑り、頬を赤らめながらそう叫んだ。
ほほう、そうか。
リンシアも初めてなのか、なるほどなるほど。
ちがった、そんな大声を出したら帝国軍の皆様にご迷惑だろうが!
「何を言ってるんだ!?」
「アレクシス様、ご覚悟を!」
そう言いながらリンシアが服を脱ぎ棄て、後ろに放り投げた。
肌色が露出し、想像を絶する巨大な双丘が乱舞する。
やっぱりデカすぎるだろ。
何を食べればそんなにデカくなるんだ。
眼福だよちくしょう。
リンシアに便乗するかのように、リリーも俺を襲う気満々で突進してきた。
おい、禁術魔法を使うな!
テーブルが粉砕しただろうが!
床に穴が空いてるし。
強化した肉体で全力で回避し続ける。
身の危険を感じる為か、通常よりも高い出力となっている気がする。
リンシアまでもが肉体強化を行って俺に襲い掛かる。
巨大な胸部が激しく揺れる武闘派大聖女ってなんだか嫌なんだが!
というかマズイ、二対一の状況では追い込まれる。
俺の大切な何かが奪われてしまう。
迫られるのは嬉しいが、せめて魔王を倒して平和になってから……。
あ、いや。
なんというか、シルフィードを倒してひと段落してからでもいいかな……。
ともかく、今じゃないだろう!
魔力を練り上げ、全力で術式を展開し、俺の周囲に結界魔法を張り巡らせた。
それも五重に。
逃げながら時間を稼ぎ、準備していたのだ。
これならばリリーの攻撃力だったとしても簡単に突破できないはず。
「くっ、小癪なまねを! リリーさん、サポートします!」
「ん。獣王パンチ……!」
刹那、五重に展開していた結界魔法が粉々に粉砕した。
いや、なんで手を組んでるんだよ!
リンシアは一番が欲しかったんじゃないのか!
というか、リンシアの補助があったとはいえ、五重の結界魔法を一撃で突破してきた。
おかしいだろ、何だよその威力は!
裸体の二人が獣のように俺に飛び掛かってくる。
片方は本当に獣だけど。
情けない悲鳴をあげながら、俺は全力で逃げることしかできなかった。




