004 謎の美女にはトラブルがつきもの
どうなったんだ?
炎の巨人は?
俺の故郷は?
周囲には、水が混ざり泥となった地面が広がるだけ。
誰も答えてくれる者はいない。
いるとは思わなかった。
「神は、わたしたちを見捨てていなかったのですね」
不意に声がした。
しなやかで張りのある、女性の声。
「まさか倒してしまうだなんて、驚きました。わたしはリンシア、帝国の者です」
さきほど、俺に逃げろと声をかけてきたプラチナブロンドの髪の女性だ。
ニッコリとした表情を浮かべ、俺に視線を向けている。
いや、まて。
今彼女は帝国の者ですと名のった。
これはマズいんじゃないのか?
帝国といえば、平和になった今でも危険な攻撃魔法を研究していると噂されている国だ。
いずれ他の国と戦争を起こし、領土を増やす目論見があるとも聞いたことがある。
そんな帝国の人間が、王国の片隅とはいえ、領土内にいる。
まさか、先ほどの炎の巨人は彼女の仕業か……?
「何が目的だ」
「お名前をお聞きしても?」
「……アレクシスだ」
ニッコリとほほ笑む表情からは、思考が読み取ることができない。
一体何を考えているのだろうか。
「アレクシス様、折り入ってお願いがございます」
「何だ」
「わたしと一緒に、帝国へ来ていただけませんか?」
突然の誘いに驚きを隠せなかった。
帝国に来てほしい?
それはマズいだろう。
王国とあまり仲が良くないらしい帝国に向かうだなんて、グランドル伯爵が許してくれるはずがない。
「それはできない。というか、さっきの炎の巨人は何だ。お前の仕業か?」
「あれは『魔精霊イフリート』。かつて魔王に仕えていた五柱のうちの一柱です」
イフリート? 魔王?
何だかよく分からない話をし始めたぞ。
魔王は遥か昔に勇者一行が倒したんじゃないのか?
「話が読めない、もっとわかりやすく頼む」
「失礼しました。かつて世界を恐怖に陥れ、勇者によって滅ぼされた魔王ですが。この度、復活が確認されました」
魔王が……復活だと?
「帝国は魔王復活に備えており、観測を続けてきました。復活した魔王は力を取り戻している最中のようで、魔精霊が突如現れたのもその影響です」
「まてまて、話が飛躍しすぎてる」
「そしてアレクシス様のご活躍により、今、イフリートの脅威が払われたのです!」
「おーい」
駄目だ、俺の声が届いていない。
完全に演説に夢中になっている。
見た目は美しいが、もしかすると頭がアレなのか?
「イフリートにとどめを刺したのは正しく【禁術魔法】! かつての勇者パーティーメンバーであった大魔法使い、ドラトニス様の使っていた魔法に違いありません!」