039 今、俺は違う意味で襲撃を受けているがな
ひとまず、リリーの話も聞いてみることにする。
会議室の空いている席に座るよう案内するが……。
「あの、リリー?」
ちょこんと、俺の膝の上に着席した。
小柄ゆえに、スッポリとおさまっている。
「ここがいい」
「いや、そっちの席が空いてるんだけど」
「リリー、アレクのもの」
飼い主に懐いたペットか!
リリーは一向に移動しようとしない。
「まあ、そこでも話し合いに支障はないでしょうし。アレクシス様なら大丈夫であると信じていますし」
禍々しい何かを放つリンシアがニッコリとそう言った。
内心は大丈夫じゃない。
どこがとは言わないが、大丈夫じゃない。
女性とこんなに密着した経験なんて今までなかったんだぞ。
リリーは、さもここに座るのが当たり前だという顔をしているが。
布越しに接触しているのは大変危険な状況ですよ、これは。
ワザとやってるのか?
動くんじゃない、これ以上は危険だ。
「さて。質問ですが、リリーさんは獣人王国の生き残りで間違いありませんか?」
「……みんな、死んだ」
リリーのしおれた声に、場の空気が少し暗くなる。
家族もみんな殺され、独りぼっちだったのだろう。
「辛いことを聞くようで申し訳ありませんが、獣人王国で何があったのか。詳しく教えてくださいますか?」
「……ん」
リリーは頷き、ポツリ、ポツリと語り始める。
獣人王国はよそ者を寄せ付けない誇り高い国であった。
強い者が正義というしきたりの元、獣人の中で一番強い者が獣王と呼ばれ国を
治めていたらしい。
危険を伝えに来た帝国からの使者も門前払いしたのだとか。
どんな危機が訪れようと、自分たちの力でなんとかできると過信していたからだ。
結果、シルフィードに滅ぼされてしまった訳だけど。
「リリー、獣王の娘」
「獣王の娘って……お姫様じゃんか!?」
確かに元々着ていた衣装もボロボロだったけど、かなり豪華なものだった気がする。
だが、獣王の子供だからといって、必ず次の獣王になれるという訳ではない。
力が伴わなければ、獣王にはなれないのだ。
それで、リリーにその力が備わっていたかというと、そうではなかった。
年相応の実力は身に着けていたが、獣王になれる器ではない。
ごく普通の獣人だった。
本人も獣王になれるとは思っていなかったらしい。
「リリーさんはその力をいつ自覚したんですか?」
「アイツと戦ってたとき。いきなり」
獣人王国のプライドにかけて、突如現れたシルフィードに全員が立ち向かった。
だが、結果は今の通り。
次々に仲間たちが殺され、絶望的な状況に陥っていく。
それでも攻撃の手をやめなかった。
自分たちで国を守るという意思を貫いて。
気が付けば、リリー以外立ってはいなかった。
自分より強かった者も、最強であったはずの獣王でさえも。
リリーは戦いの中で命の危機に瀕し、禁術魔法を発現させた。
自らの肉体を尋常ではないほどに強化する魔法を。
だが、既に重い怪我を負っていた為、シルフィードに押されていた。
このままでは殺されてしまう。
仲間も死に絶え、自分も死んでしまえば誰が仇を討つのか。
そう思い立った瞬間、リリーは全力でシルフィードから逃亡したらしい。
まずは傷を癒し、万全の体制になってからアイツを倒してみせると。
四六時中、禁術魔法による肉体強化を発動していると自然治癒能力も爆発的に上昇するらしい。
それでも骨折や、引き裂かれた深い傷の治癒には時間がかかったそうだが。
怪我も完治し、いざ立ち向かうも、シルフィードはその間成長によりさらに力を付けていた。
とても一人で勝てるような相手ではなかったという。
帝国軍の成長妨害がなければ即死していた可能性もあるだろう。
そうとも知らず、リリーは弱いよそ者が自分の獲物にちょっかいを出していると思い込み、死なない程度に攻撃して追い返していたそうだ。
仇は必ず自分がとってみせると意気込んで。
それが、謎の襲撃者の正体であった。




