037 待て、服を脱ぐな! どうしてそうなる!
しばらくすると落ち着いてきたのか、彼女……リリーは泣き止んだ。
リンシアから離れて俺に近づいてくる。
「名前、知りたい」
「名前って……俺のか?」
「ん」
そういえば名乗ってなかったな。
「俺はアレクシス。で、そっちはリンシア。帝国の人間だよ」
「リリーさん、よろしくお願いしますね」
「アレク……リンリン……人間……」
あれ、なんか湾曲して伝わった気がするけど……まあいいか。
確か獣人王国はプライドが高く、国交を持たないんだっけ。
少々警戒しているのかもしれない。
「アレク、強い」
そう言いながら、まっすぐに俺をみつめた。
俺が強いって?
それほどでも……ある。
「だから、つがいになる。獣人王国の掟」
「ん?」
今、何と言った?
リリーは俺から視線を外し、頬を赤らめ、クネクネしながら体を見せつける。
獣人王国の民族衣装のような服を身に着け……肌の露出度はかなり高い。
それに加え、戦いにより服が一部破れており、色々と際どくなっている。
ギリギリだ。
ギリギリ見え――、
「リリー、アレクのもの」
突如、リリーが服を脱ぎ始めた。
は、ちょ!?
「な、なにやってんだ!?」
上半身が裸になり、しなやかな肌があらわになる。
リンシアと比べ得ると天と地の差だが、ほんのりと膨らみのある胸の上に、ピンと立ち上がる突起が主張する。
これはこれで……。
いや、落ち着け俺!
何を考えてるんだ!
「リリー、はじめて。だから……やさしく……して」
リリーの手は下に伸び、パンツごとスカートに指をかける。
そのまま下に降ろして下半身を――、
「ちょ――――っと待った!」
とんでもないことになる前にリリーを止める。
手を握った瞬間、「あん……」と危険な声を漏らしていた。
危険なのは俺の一部分だ。
「アレク……強引……。でも、我慢するから……」
さらに頬を赤らめ、俺の手に指を絡ませてくる。
「いや、違うから! リンシアも何か言ってよ!」
「獣人王国のメスは強いオスに身を捧げるという文化があったはずです。でもさすがはアレクシス様です。しっかりと理性を保たれ、過ちを犯さないと信じていましたよ」
リンシアさん、ちょっと声のトーンが低いんだけど。
とにかく、ここでヤらかす訳にはいかない。
なんたって、魔精霊シルフィードのいる森の中なのであるから。
先ほど巨木を粉砕した衝撃で察知された可能性もある。
『リ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛――――』
遠くから不気味な叫び声が聞こえた。
「この音は……」
「間違いなく、シルフィードの咆哮でしょうね……。こっちに近づいてきているようにも思えます」
ほら言わんこっちゃない!
「撤収!」
リリーを脇に抱え、その場から撤収する。
先ほどの戦闘で大魔法使いの杖がどこかに埋もれてしまっている。
探している間にシルフィードに襲撃されてしまうだろう。
シルフィードがいない時にまたひっそりと探せばいい。
万全の状態でないのなら、逃げるのが一番の得策だ。
リリーは変な声を出しながら俺の小脇でクネクネ。
その様子をジト目で睨みつけるリンシアと共に、森を駆け抜けた。




