034 襲撃者の正体
ふと、俺の勘が何かを感じ取った。
「リンシア」
「ええ、アレクシス様も気がつきましたか」
どうやらリンシアも感じ取ったらしい。
誰かに見られている。
方角はわからない、けれど、剥き出しとなった敵意のような視線をひしひしと感じる。
リンシアと同時に杖を構え、魔力を練り上げた。
――刹那、倒壊した家屋の陰から何かが飛び出した。
速い。
眼に見えぬほどの速度で俺達に急速接近し、
「リンシア、いくぞ!」
「はい!」
俺とリンシアの二人で発動させた結界魔法が、攻撃を弾いた。
勇者パーティー専用装備に加え、二人で同じ禁術魔法を発動させたことにより、通常よりも速く結界魔法を展開させることができた。
恐らく、例の襲撃者だろう。
攻撃を弾いた次の瞬間にはすでに姿が見当たらない。
周囲を見回すと凄まじいスピードで俺達の周囲を移動していることがわかった。
ガンッと結界に攻撃が加えられる音が響く。
一度ではなく、何度もだ。
さすがに禁術魔法で作り出した結界を破ることはできな――、
「は……?」
ピシリと、俺達を守る結界にヒビが入る。
待て、敵は帝国兵を一人も殺していなかったんじゃないのか?
結界魔法にヒビを入れる威力の攻撃だなんて……直撃すれば即死だぞ!?
「アレクシス様、攻撃を!」
「わかってる!」
木々が溢れる森の中に存在する獣人王国で炎系統の魔法を使う訳にはいかない。
雷系統も同じ理由だ。
水系統でもいいが、今回は別の禁術魔法を使う。
結界の維持をリンシアに任せ、杖を振りかざした。
展開された術式は空気に影響を与え、風に昇華する。
動き出した風はやがて刃となった。
風魔法だ。
通常では考えられないほどの切れ味を持った風の刃が、木々や瓦礫をスパンと切断しながら襲撃者目掛けて飛翔する――が。
「クッ、速すぎる」
俺の禁術魔法をいとも簡単に回避した。
眼に見えない高速で迫る風の刃だぞ?
むしろどうやって回避してるんだよ。
回避するだけでなく、攻撃の手も緩めない。
結界のヒビはどんどん広がっていく。
辺り一帯に影響を及ぼす大規模禁術魔法を使うという手もあるが、その場合シルフィードを呼び寄せてしまう可能性がある。
今この状況でシルフィードに襲われたらどうなるか。
イフリートよりも遥かに成長した魔精霊だ、しっかりとした作戦を立てない状況で絶対に勝てるという確証はない。
ならば、別の方法を試しみるのみ。
「リンシア、結界が破られたら俺に補助魔法を!」
「わかりました! 何か考えがあるんですね、任せてください!」
結界を維持しつつ、二つ返事で答えてくれた。
俺は攻撃系統ではなく、補助系統の禁術魔法を発動する。
相手の動きを見ることができないのであれば、俺も同じステージに立てばいい。
術式を展開し、魔力を全身に巡らせていく。
――肉体強化魔法。
俺は今、常識を超えた身体能力を手に入れた。
刹那、結界魔法が限界を迎え、ガラスのように粉々に粉砕した。
粉砕した欠片が、空中でゆっくりと舞うのがしっかりと見て取れる。
強化された肉体では凄まじい動体視力で通常では見逃してしまう速度を捉えることができるのだ。
つまり、襲撃者の攻撃も。
振りかざされる鋭い爪の生えた小さな手を受け止める。
俺の身体は強化されているはずなのに、なんて威力だ。
だが、攻撃を止めることができた。
そして、襲撃者の姿も――――、
「――――お前は」
そこには、薄緑のショートヘアから獣の耳が生えている、小柄の少女がいた。
新ヒロイン登場!




