026 やたら喋るドラゴン
炎が俺を覆い尽くそうとした瞬間。
それよりも先に透明の膜が俺を覆った。
炎は遮断され、一切の熱を通さない。
「ギリギリ……間に合いました」
「助かった、リンシア。ごめん、戦いの最中に」
「いえ、力を合わせてドラゴンを倒しましょう」
間一髪、リンシアの結界魔法により助かった。
『ほう、この時代にも我のブレスを防ぐだけの力を持った者がいるか』
ブレスの黒煙が晴れ、ドラゴンがすぐ目の前に姿を表した。
どうやら、城の天辺からここまで飛翔してきたらしい。
そして……喋っている!?
ドラゴンって喋れるのか!?
「ヒッ、ド……ドラゴン……! 城から離れないんじゃなかったのかッ! あ……あが……」
グランドル伯爵が情けない声を漏らし、地面を這いずりながら逃げていく。
今は忘れろ。
目の前の敵に集中しなければ。
「お前は、復活した魔王の配下だな」
『如何にも、我こそが魔王様の屈強なる右腕。魔物の頂点に立つドラゴンだ』
やはり、意思の疎通が可能であるようだ。
魔王の右腕を自称するあたり、相当に自信があるらしい。
『この土地は実に素晴らしい、魔王様の魔力が満ちている。本来であれば魔精霊に注がれるような魔力であるが、どういうわけか魔精霊がおらぬ。我がこの魔力を全て頂戴し、最強の名を手にするのだッ!』
あれ、このドラゴンめっちゃ喋るな。
というか、魔精霊がいない理由を知らない?
俺が出現した直後に倒してしまったからだろうか。
「素晴らしい野望です、さすがは魔物の頂点に立つドラゴンですね」
『クハハハハ! わかるか、小娘!』
「ええ、身体に刻まれた古傷を見ると歴戦であることがうかがえます。さぞ激しい戦いを経験されてきたのでしょう。ちなみに、魔王様はどちらにおられるのですか?」
あれ、リンシアさん?
普通にドラゴンと会話してるんですけど。
というか、最後。おだててると思ったら、誘導尋問してない?
『いかにも、これはかの勇者パーティーの一員、大魔法使いに付けられた傷である。奴もまた強者であったが、我にかかれば下等生物よ。魔王様は復活を遂げられ、力強い魔力を感じるが……今は姿を御隠しになっている。流石に大魔法使いも寿命で死んでおろう。つまり、我が天下だ』
ドラゴンも普通に答えてるし。
残念ながら魔王の居場所は聞き出せないようだが……こいつ大魔法使いに傷を付けられたと言ったぞ。
俺はドラゴンと対峙するのは初めてだ。
故に俺が付けた傷ではない。
過去の大魔法使い……ドラトニスに付けられた傷……?
「アレクシス様」
そう考えていると、リンシアが小声で俺に話しかけてきた。
「おそらくですが、このドラゴンは過去に魔王が猛威を振るっていた時の生き残りです」
「俺も同じことを考えてた」
魔王が復活したのはつい最近だ。
魔物は魔王の魔力によって生み出される。
身体に古傷があったり、大魔法使いのことを知っていたり。
魔王が倒された後も、何らかの理由で生き残った個体であると思われる。
「何か有益な情報を知っているかもしれません、生け捕りにしましょう」
「わかった。でもどうやって?」
「従わせるには心を折るのが一番です。アレクシス様、まずは禁術魔法でドラゴンを半殺しにしてください」
リンシアが怖いこと言ってる。




