025 VSドラゴン
俺が思い悩んでいる間に、魔導車は王都へと到着した。
本当に到着してるよ。
見覚えのある街並みが広がり、中央にそびえ立つ城。
その城の屋根の上、我が物顔で火を吹いているドラゴン。
赤い鱗で身を包み、二対の巨大な翼をはためかせる姿は、間違いなく勇者の物語に出てきたドラゴンそのものだ。
住民は既に避難を行なったのか、周囲には見当たらない。
確かに、あんな巨大な生物が城を占拠していたんじゃ、険悪な関係の帝国にすがりたくもなるか。
「さて、アレクシス様。悪い子にお仕置きしましょう」
「ああ、そうだな」
もう俺は帝国の人間だ。王国がどうなろうと知ったことではない、と言いたいところだが。
困っている人がいるのであれば黙ってはいない。
再び魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらすことが俺の……俺たちの役目なのだから。
ドラゴンに向けて大魔法使いの杖を構えた。
奥底に眠る魔力を捻り出し、魔精霊イフリートの時に使用した禁術魔法の感覚を思い出す。
敵は現在、高い屋根の上だ。
つまり、遠距離攻撃を放つ必要がある。
禁術魔法術式を展開し、膨大な魔力を杖に流し込んだ。
「――ファイアボール」
杖の先から赤い魔法陣が展開され――渦巻く炎が球を作り上げる。
これは初級魔法のファイアボールではない。
禁術魔法のファイアボールだ。
魔精霊イフリートの出したファイアボールより遥かに大きく、直径は約二メートルにも及ぶ。
凄まじい熱量であるが、完璧な魔力コントロールにより圧縮された魔法は周囲に熱を放出しない。
小さな魔力コントロールは全くできなかった俺だが、巨大な魔力制御は息をするようにできるようだ。
いや、おそらく俺だけの力ではない。
リンシアが補助系統の魔法により、俺の魔法に補正がかかるよう手助けしてくれている。
それに加え、帝国で支給された大魔法使いの杖。
消費魔力が最小限に抑えられた状況で、最大限の効果を持つ魔法が発動できた。
この規模であれば無限に撃てそうである。
ドラゴンに向けて、生成したファイアボールを勢いよく放った。
豪速で飛翔するファイアボールは――ドラゴンの翼を掠めて空の彼方へと消え去る。
「クッ、避けられたか」
「かなり距離がありましたからね。そう簡単に倒せる相手ではないということでしょう」
その方が燃えるというものだ。
ドラゴンは俺たちの存在に気がついたのか、こちらに向けて咆哮をする。
杖を構え、次の魔法を――、
「アレクシス……お前、本当に魔法を……」
聞き覚えのある声が、俺の耳を貫いた。
振り向くと、そこにいたのは。
「グランドル……伯爵……」
「ああ、私だ。探したぞ……一体どこをほっつき歩いてたんだ」
全身汚れ切ったみすぼらしい姿のグランドル伯爵が立っていた。
顔には狂気を孕んでいるようにも見える。
「まったく、手を煩わせよって、お前は私の“物”なのだぞ。国王陛下がお呼びだ、さあついて来い」
「――――」
この人は、この後に及んでまだ俺のことを所有物だと考えているのか?
俺の存在を亡き者にして。
二度と顔を見せるなと言い放ったのにも関わらず。
「アレクシス様!」
刹那、激しい炎が俺に迫っていた。
これは、ドラゴンのブレスだ。
マズイ、マズイマズイマズイ――!
グランドル伯爵に気を取られ、ドラゴンに攻撃の隙を与えてしまった。




