024 デートとは、哲学
想定していた速度よりも何倍も速い。
思わず車内で転びそうになった。
禁術魔法が使える勇者パーティー専用の魔道具とはいえ、凄すぎないか?
通常の馬車であれば帝都から王国の辺境までにまる一日、そこから王都に移動するのにさらに一日。
計二日間の移動時間を要するのだが、この魔導車を用いれば、わずか数時間で王都に到着するらしい。
帝都に行くときとは大違いである。
そういえば、帝都に行く際にリンシアに支払ってもらったお金をまだ返していなかった。
帝国に正式に雇ってもらったわけだから、恩は返しておかないと。
まあ、リンシアにとっては微々たる金額かもしれないけど。
お金の管理は全て使用人が行ってくれるらしいので、お願いすればリンシアへ送金してくれるだろう。
「リンシア、帝都に向かう時に出してもらったお金を返しとくよ」
「覚えていてくれたんですか? ありがとうございます。でも、気にしなくて大丈夫ですよ」
そういう訳にはいかない。
全てを失った俺に手を差し伸べてくれたリンシアに、どれだけ助けられたか。
金額としては少しかもしれない。
だが、少しの時間だけど一緒に旅をしながら貰ったものは大きなものだったと今になってわかる。
水に流された故郷に戻った時、リンシアが待っていてくれなければ。
俺はこうして立ち直れていなかっただろう。
「俺が返しておきたいんだ。それに、お礼もしておきたい」
「そこまでお礼をしたいというのであれば、仕方ないですねぇ。でも、ただお礼をしてもらうのも面白くないですし、わたしのお願いをひとつ聞いていただけますか?」
リンシアが怪しい笑みを浮かべる。
一体なにを企んでいるんだ。
まさか昨夜の続きをなんて言わないよな……?
その、嫌というわけではないが。
まだ知り合ったばかりで、お互いを深く知らないまま、というのはだな。
「……俺が叶えられるものでよければ」
「では。今度、帝都を案内しますので、その時にお店で沢山ごちそうしてください。わたしのオススメ料理やデザートが沢山あるんです」
変なお願いでなくてよかった。
拍子抜けだなんて思ってないぞ。
本当だ。
ちょっとだけ期待してました。
というか、帝都の案内は俺からお願いしようと思っていたことでもある。
あれだけ活気の溢れている街だ。
馬車の窓から覗いただけでも気になるものが沢山あった。
お金には全く困っていないので、御馳走するぐらいお安い御用だ。
「もちろん、任せといて」
「では、楽しみにしておきますね。デートの約束、すっぽかしたりしたら駄目ですよ」
「ああ、わかった。……ん、デート?」
「ええ、デートです」
ニッコリと、リンシアがそう答えた。
男と女が二人で観光したり、食事をしたり。
……確かにデートだ。
デートってどうやるんだ?
帝都を案内してもらうんじゃなかったっけ?
俺が先導したほうがいいのだろうか。
ああ、何だかデートだと思うと緊張して変な汗が出てきた。
帝都に帰ったら使用人に相談してみよう。
あのナイスガイたちだったら色々提案してくれるだろう。
というかリンシア、昨日の夜デートより踏み込んだことしてこなかったか?
夜の寝室に忍び込んでくるだなんて。
デートってなんだっけ。




