021 寝室での……
俺もまさか自分が禁術魔法なんてとんでもない魔法を使えるようになんて思いもしなかった。
かの大魔法使いドラトニスと重なると言われて……悪い気はしない。
「帝国に所属し、魔王討伐に向けて注力していましたが。神のお導きでしょうか、魔精霊イフリートの出現前兆を調査している時にアレクシス様と出会えたのですから!」
テンションが上がってきたリンシアの柔らかい部分が俺に触れる。
静まりたまえ、俺。
「凄まじい威力の水を操り、イフリートにとどめを刺すアレクシス様は。とても痺れましたよ?」
耳元にまで接近したリンシアの吐息がかかるのを感じる。
「ち、近いって!」
我慢できなくなりそうなのでベッドの端っこまで移動し、距離をとった。
その様子を見て、リンシアはクスクスと可愛らしく笑う。
「まさしく、わたしの理想のひとだと思ったのですが。実際に話をして……アレクシス様の眼を見て。あぁ、こんなに凄い魔法を使うのに、わたしと同じ眼をするんだって思ったんです」
「……幻滅したってこと?」
「まさか、むしろ嬉しく思ったんです。わたしにも手が届きそうだって」
「えっ、なっ」
ベッドの上に座る存在は、まるで甘い蜜のような誘惑で。
一度でも捕まれば二度と逃げることはできないのだろうと思わせる。
「凄い力を持っていたとしても、心は私と同じ普通のひとなんだなって。憧れを追うよりも、そんなひとと一緒に歩みたいって思ったんです」
ゴクリ。
「なんちゃって」
そう言うとリンシアはベッドに寝転がるようにダイブし、俺に背を向けた。
背中からお尻にかけてのラインが露わになり……これは危険だ。
禁術級である。
よく見ると、プラチナブロンドの髪から覗かせる耳が赤く染まっていた。
あれ、もしかしてさっきの言葉、恥ずかしさを我慢してかなり頑張って喋ってた……?
ほぼ半裸の格好のほうが恥ずかしいと思うんだけど。
「リンシア?」
「ちょ、ちょっと馬車の旅で疲れちゃったみたいですね。少し横になろうと思います」
「禁術魔法で疲労も飛ばせるんじゃ」
「何のことだかわかりませーん」
リンシアは背を向けたままうずくまる様に顔を隠す。
もしかしてそのまま寝るつもりか?
いやまあ、間違いを犯すわけにもいかないし。
日も落ちた時間に自分の部屋に戻れというのもアレだし……。
リンシアに背を向けて、俺もベッドに横になった。
静かな……気まずい時間が流れる。
「あの、アレクシス様」
「……どうしたんだ?」
「後は、好きになさってくださってよろしいですから」
「んっ!?」
変な声が出てしまった。
いや、好きにしてもいいって。
つまり、やっぱり。
ゆっくりお話をするつもりだけじゃあ、なさそうなんだが?
「……リンシア」
「すーすー」
「え、あれ?」
起き上がり、リンシアの方へ視線を向けると……寝てる?
気持ちよさそうに寝息を立てながら眠ってる!?
この一瞬で!?
というか、寝相わるいな!
下着がはだけ、見えてはいけない部分が見えていた。
巨大な二つの丘の上に小さな小人が元気よく顔を出している。
さすがに寝込みを襲うのはよくないよな。
うん。
アクロバティックな寝相のリンシアに布団をかけ、そのまま俺はトイレに直行。
スッキリとした気分で布団に潜り込み、眠りについた。
いやあ、よいものを見せて頂いた。




