002 故郷、炎
「……誰だ」
美しい女性だが、今はそんな気分ではない。
装いから、この村に住んでいる人物という訳でもないだろう。
「忠告はしましたよ。では、わたしも避難しますので」
「あ、ちょっと!」
女性はそういうと、村の外へと歩いて行った。
急に逃げろだなんて、一体なんだというのだ。
再び眼を瞑りお祈りを再開しようとした瞬間――不意に、熱を感じ取った。
まるで焚火の近くにいるかのような熱かと思いきや、どんどんと熱くなっていく。
いや、熱すぎる。
「――――ッ!」
余りの異常事態に、眼を開いて立ち上がった瞬間。
凄まじい轟音が周囲に鳴り響いた。
衝撃により、俺の身体も数メートル飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がり、何とか体勢を整えて轟音が起こった中心地を見てみると。
――そこには“炎”がいた。
炎と比喩してしまうほどに熱を持った、燃え盛る人型の存在が、俺の生まれ故郷の真ん中に立っている。
身長は三メートルを越えているだろうか。
炎の巨人だ。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛』
炎の巨人の叫び声に、生命の危機を感じ取った。
アレは、人知を越えた存在であると直感が訴えている。
逃げなければ、この場からすぐに逃げなければ。
さもないと。
死ぬ。
「ひっ……あっ……」
声にならない声を放ちながら、逃げようとするが。
足が動かない。
動かないと察知した瞬間、激痛を感じ取った。
視線をやると、俺の足がおかしな方向に曲がっている。
逃げられない。
まさか、ここで死ぬのか?
こんな訳のわからない状況のまま、俺は。
炎の巨人が、俺の存在に気が付いた。
先ほどよりもさらに熱量が増す。炎の巨人の近くの木片が発火しはじめた。
ああ、死ぬんだ。
炎の巨人が俺に向けて左手を掲げる。
刹那、手の前に渦巻く炎が集結し、五十センチほどの圧縮された炎の弾が生成された。
知っている、俺がどれだけ努力しても使えなかった初級魔法……“ファイアボール”だ。
けど、普通のファイアボールじゃない。
あんなにも高密度な魔力で練り上げられた魔法、見たことがない。
放たれたファイアボールは俺を飲み込もうと、凄まじいスピードで接近する。
けれど、やけにゆっくりに感じた。
走馬燈というやつだろうか。
今までの記憶がふわり、ふわりと浮かび上がる。
何も知らない俺を勇者の生まれ変わりだとはやし立て。
魔法が使えないと知れ渡ると手のひらを返され。
あげく膨大な魔力を持っていても魔法が使えなければ無能というレッテルを張られ。
ろくな人生じゃなかった。
ふつふつと、怒りが煮えたぎる。
どうして俺がこんな目に遭わなきゃならない。
どうして。
どうして死ぬんだ。
なぜ普通に生きちゃいけない――――。
なぜ――――――――――――――――。
その疑問が、俺の生存本能を弾けさせた。
秘められた魔力が、脈を打ち始める。