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禁術の大魔法使い  作者: うぇに
第四章
199/200

199 それぞれの道

 周囲は光に包まれていた。

 目の前に存在するのは恨みの籠った表情をする一人の女性。


「人の仕出かしたことは許されることじゃない。けど、ノームもウンディーネもこんな結果を望んでなかったはずだ」


 それを聞いて、女性は更に表情を歪め――涙を零す。


「未知のものは恐ろしい、人に刻まれた本能だよ。それを一番知っているのはあなたじゃないのか、シュレストネレス」


 邪神へ成り果てる前に人を統べていた人神柱・シュレストネレス。

 彼女は泣き崩れ、両手を地につけた。


「人は未知のものを知ろうとせず、排他した。けど、あなたもそんな人を知ろうとせずに全てを消し去ってしまおうとした。それじゃあ駄目だ、駄目なんだ」


 ゆっくりと、泣き崩れた彼女のもとに歩んでいく。


「見てほしい、あなたが捨てた人がどうやって生きてきたのかを」


 ふわりと、光の粒子がシュレストネレスの体へと吸い込まれていく。

 それは喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。そして他者を愛する心だ。

 勇者アディソンが作り上げた帝国。そこで暮らす多種多様な種族がお互いに歩み寄り、そして協力して生きている様を。

 最初は衝突も多かった。

 違う種族同士、知らないことだらけで上手くいくはずがなかったのだ。

 けれど、どれだけ時間がかかっても必ず世界を平和にしてみせるという意思を継いだ皇帝が国をまとめ上げ、誰もが笑顔で暮らせる帝国という国に成長している。

 互いを知ることで、どう接すればよいのか理解したのだ。

 譲れない部分はもちろんある。

 それは相手の個性だと知って、尊重しなければならない。

 尊重して、ともに生きていく道を探すのだ。


「知らなければ知ればいいんだ。あなたが生み出した人はそうやって成長し続けている。もちろん王国や獣人王国、純粋のエルフのように排他的な種族もいる。だけど、これからみなを引っ張っていくニーナであれば、そんな壁も打ち砕いてくれるはずだ。なんたって、支える仲間がいるからな」


 ゆっくりと、シュレストネレスが首を上げる。


「共に歩こう、精霊も人もお互いを知れば共存できる」


 もう涙を流す女性はいなかった。


『感謝します、愛する子よ』


 そういって、シュレストネレスは本来の役目を遂行するため、ふわりと姿を消した。


「さて、ドラトニス」


 小さく縮こまった少年がひとり、そこにいた。


「寂しいならちゃんと寂しいって言えばいいんだよ」

「うるせぇ、自分に説教されたかねぇよ……」

「俯いてないで、顔をあげて周りを見てみろ」


 俺の言葉にドラトニスがゆっくりと、不機嫌そうな顔をあげる。


「あーもう、やーっと顔あげた。ドラトニスがしょげてたらアタシまで調子が狂うじゃない。というか一発殴らせなさい」

「ドラドラ、ミミーを無視してた。罰としてお肉一生分」

「二人とも、あまりドラトニス様をいじめるとまたしょげてしまいますよ? ここはビンタにとどめておきましょう」

「……お前らな」


 アディソン、ミミー、コルネリアの騒ぐ声にドラトニスが呆れた表情をした。


「まあなんというか、ドラトニスがアタシたちのことを大切に思ってたのはわかったから。今回だけはそれに免じて許してあげるわ」

「未来のアディソンさんが作った街をボロボロにしてしまいましたが、住民の犠牲者は出ていませんし」

「ぷいぷい」


 三人がドラトニスに改めて手を差し伸べた。


「ほら、何ぼさっとしてんのよ」

「俺は……」

「いいから、アタシたちは仲間でしょうが! 困ったときはお互い様、ふざけた顔で助け合い精神とか言ってたのはドラトニスでしょ!」

「そうですよ。それにいつまでもこの魂を借りておくのは、元の魂に申し訳ありません」

「大丈夫、ミミーはどこまでもドラドラと一緒」


 四人は別の魂に勇者パーティーの魂を上書きして再現した存在だ。

 この空間、神の力を使って作り上げた一時的な上位世界から外に出れば魂は元の形に戻る。今の意識は完全に消えてしまうのだ。


「ったく……俺がいないと勇者パーティーはしまらねぇからな。その……すまなかった」


 少し顔をそらしながらドラトニスは手を伸ばす。

 その手を三人がつかみ、ドラトニスを引っ張る。


「どうやら来世ではアタシたちみんな上手くやってるみたいだし、安心して眠れるわよ」

「……そうだな」


 そういって、ドラトニスは俺の方へ身をひるがえす。


「アレクシス、余計なことして悪かったな。ホムンクルスなんて作らなくても、おれは生まれ変わってちゃんと成長できてたって訳だ」

「ホント、余計な事してくれたよ」

「おい、言い方ってもんがあるだろ! まあ、なんつーか……ありがとよ」

「おう」

「せいぜいハーレムを楽しみやがれ」

「言われなくてもそうするさ。みんな俺の大切な女だからな」

「そうかよ。じゃあ、あばよアレクシス」

「ああ。あばよドラトニス」


 右手にアディソン、左手にコルネリア、そして背中にミミーを引き連れてドラトニスは歩き出した。

 お前も十分ハーレムだっての。

 そのままふわりと、四人は姿を消した。


『我らも行くとしよう、ドラキュリア』

『そうじゃの、失われた獣を復活させねばならぬ』

「トラトウス、ドラキュリア」

『どうした、我が子よ』

「その呼び方はなんかやめてほしい」

『そうか。どうした、アレクシス様』

「事情を知ったらその呼ばれ方も微妙な気がするけど……。助かったよ。二人がいなかったらどうにもならなかった。特にドラトウスはシルフィードと戦ってた時からね」

『気にするな、我は我の赴くままに生きたまで』


 バサリと、二体の獣が翼を広げ宙を浮く。


『地上でまた顔を合わせることもあるだろう。その時は人と獣、今度は争うのではなく共に歩む道を進みたいと考えている。アレクシス様よ、その橋渡しになってはくれぬか?』


 なーに威厳っぽいものを出しちゃってるのか。

 でも、獣と人がともに歩める世界。

 昔はあまり仲が良くなかったみたいだけど、それでも獣人みたいにまぐわった子孫も存在するわけだから。

 お互いを知れば、きっと共存も可能だろう。


「まかせとけ、世界を平和にするのが勇者パーティーの役目だからな」


 それを聞き届けると、二体の獣もふわりと消えていった。


「アレクシス様、わたしたちも帰りましょう。アンナさんが部屋を整えて待ってますよ」

「子だくさん計画が待ってる」

「そ、そうよね。帝国を復興するために子孫を増やさないと!」

「……お前らな」


 ドラトニスと似たような反応をしてしまった。

 元は同じだし、そんなもんか。


「そこまで言うなら覚悟してもらうぞ。言い訳しても逃がさないからな?」

「か、かかってきなさい!」

「まずはリリーから。ご褒美、約束」

「ふふ、いつになく魅力的ですよ」


 右手にニーナ、左手にリンシア、背中にリリーをぶら下げて。

 俺たちの帰る場所へと、歩みを進めた。

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