195 いつだって絶望的な状況を乗り越えてきた
さて、どうしたものか。
ドラトニスと魂の転写を行ったからこそ、どうどうしようもない状況であることが理解できてしまう。
ただでさえ勝つことが不可能な神よりもさらに格上の存在になってしまったドラトニスを止めるすべは……。
どれだけ努力しても覆すことのできない現実。
ドラトニスも地下空間でこんな理不尽をたった一人で感じていた。
「あの、ドラトニス様のそっくりさん? アレクシスさんでよろしかったでしょうか」
考えに耽けていると、コルネリアが再び声をかけてきた。
話し方といい、振る舞い方といい、リンシアにそっくりである。
耳だけがピンと尖っていおり、エルフであることが見て取れた。
「どうした」
「状況はまだ飲み込めておりませんが、ドラトニス様は取り返しのつかないことをしてしまったのでしょうか」
「結論から言うとその通りだ。ドラトニスは神の力でこの世界を一度消して、新しい世界を作るつもりだ。自分の理想とする世界をな」
具体的にはドラトニスとアディソンとコルネリアとミミー以外の全ての生命をリセットし、新たな世界を作る。
そこに意思を持たない操り人形を配置して、楽しかった勇者の冒険を永遠に続けるつもりだ。
新たな世界を作るだなんてスケールが違いすぎて馬鹿げているようにも思えるが、今のドラトニスであれば可能だ。
それを聞いてコルネリアの表情が曇る。
「ドラドラ、調子乗ってる」
「いつものおちゃらけじゃ済まないわよ、仲間であるアタシたちがビシッと言ってやらないと!」
「ん、一生分の肉を要求する」
「というわけでアレクシスとやら! 見た目からしてドラトニスとかなり深い縁にありそうなんだけど、何か策はないかしら」
そう言いながらアディソンとミミーがキリッとした視線を俺に向けた。
「あう……その性格は皇帝陛下になってから苦労するので早めに直したほうがいいわよ……」
「リリー、ホントは食肉じゃなくて肉棒が欲しかった」
何故かニーナがダメージを受けて、リリーは……黙りなさい。
ひとまず、現状を打破するにはどうするか。
神、すなわち凄まじい量の精霊の魔力を保持した相手を倒すには、同等の力で対抗するしかない。
本来、魂の転写時にホムンクルスの時に体験した絶望的な虚無をぶち込まれ廃人になるはずだった。魂が壊れてしまっては生ける人形になるだけだからな。
けど、耐えきってやった。
終わりの見えない絶望が広がっていたが、切り抜けた。
俺の女を置いて一人退場する訳にはいかないからな。
ドラトニスも予想外だったのだろう、おかげでホムンクルス時代の謀略と魔法理論をすべて引き継ぐことができた。
しかしながら同じ記憶と知識を持っているとはいえ、精霊に近い体と精霊とでは天と地ほどの差がある。
今の俺では何をしても意味がないと思ったからこそ、用済みだと言い放って放置したのだろう。
「アレクシス様、わたしたちにできることは何かありませんか?」
「これからアタシは皇帝陛下として国民を庇護しなきゃいけないのに、リセットなんてされたらたまったもんじゃないわ」
「リリー、ご褒美のためなら頑張る。子だくさんの未来は消させない」
その通りだ。
みんなと約束したんだ。
この世界を平和にして、未来を切り開いていくんだと。